SPIE Astronomical Telescopes + Instrumentation – 参加報告(1)

2024.6.27

SPIE Astronomical Telescopes + Instrumentation – 参加報告(1)

2024年6月末にパシフィコ横浜にて開催された国際学会「SPIE Astronomical Telescopes + Instrumentation」において、弊社からは2件のポスター発表を行った。今回は筆者(別所)の発表内容について紹介しよう。

筆者は元々素粒子物理学を研究しており、宇宙論も1つの研究トピックである。今回のSPIEでは「ダークマター探索」という大きなサイエンス目的に特化した分光器があると面白いだろうというモチベーションのもと、設計を行った分光器についての報告をした(発表タイトルは「A novel application of spectroscopy: Dark Matter Quest Spectrograph」である。発表のアブストラクト等はSPIEのページから)。

 

「ダークマター」は宇宙の全エネルギーの約27%を占め、その存在は銀河形成のために不可欠であると言われているにも関わらず、その正体は未だに全く分かっていない。近年、Axion-like particles(ALPs)と呼ばれる素粒子がその正体ではないか、という説が提唱されており、注目を浴びている。理論的にはALPsは光子に2体崩壊すると言われており、この崩壊した光子を捉えることができれば、ダークマターの正体をつかめる可能性がある。そこで我々は、このダークマター(ALPs)の崩壊によって発せられる光子を捉えることに特化した分光器「Dark Matter Quest Spectrograph (DMQS)」を設計した。

 

DMQSの最大の特徴は、少ない崩壊光子を効率的に捉えることができるように、天文学の研究でよく必要とされる「空間分解能」を下げて光学系を最適化している点である。そのため必ずしも大口径の望遠鏡に取り付ける必要は無く、1m以下の口径の望遠鏡においても観測が可能である。世界最先端のサイエンスはどうしても大口径望遠鏡が有利と言われる昨今において、中小口径の望遠鏡においても十分強力なサイエンスが可能になるという点でも、意義高い装置なのではないかと自負している。図1にDMQSの光路図を示す。

 


図1:DMQS光学系の正面図(上)および上面図(下)

 

DMQSは高分散モードと低分散モードの2つのモードを備えている。高分散モードはクロスディスパーザー型であり、スリット長は13.8mm、波長分解能は\(R=30,000\)である。低分散モードはスリット長100mm、波長分解能\(R=1,000\)である。それらのスポットダイヤグラムを図2、3に、仕様を表1にまとめた。

 


図2:高分散モードのスポットダイヤグラム。黒い楕円は各波長における回折限界サイズである。どの波長帯においても概ね回折限界を達成している。四角の枠は30μm x 30μm領域を示しており、検出器の2 x 2pixels のサイズに対応。

 

 

図3:低分散モードのスポットダイヤグラム。黒い楕円、枠ともに図2と同様。どの波長帯においても概ね回折限界を達成している。低分散モードでは、高分散モードのエシェル回折格子が平面ミラーに交換され、後段のVPHが分光を行う。そのため全ての波長で回折次数は1となっている。


表1:DMQSの仕様

 

 

DMQSはさらなる性能向上の余地がある為、今回の発表で終了ではなく、今後も継続して設計検討を進めていく予定である。将来的には何らかの予算を獲得し、実際にDMQSを製作してダークマター発見に向けた観測を実施したい。本分器に興味のある方はお問合せください。

この記事の監修者プロフィール

別所 泰輝

大学院在学中は素粒子物理学を専攻。趣味の天体写真も物理理論に裏付けられた解析方法を行っており、 アマチュア天文家の間で蔓延している都市伝説は一切信じない。赤道儀マニアでアマチュア天文機器にやたら詳しい。 計算機ホログラム(CGH)や干渉計などの高度な物理計算を軽々とこなす。 光学・物理学に関連する原理や数学的理解に関する記事を担当。

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