Aπραξία

結像光学系

光学収差を理解する:単色収差の分類(3)

2024.9.19

光学収差を理解する:単色収差の分類(3)

本シリーズでは、レンズを使った結像光学系(望遠鏡、カメラ、プロジェクターレンズ等)の光学設計に必要な収差を理解することを目標にする。今回は像面湾曲と非点収差を紹介しよう。

本シリーズのこれまでの記事:
ピンボケ、球面収差 光学収差を理解する:単色収差の分類(1)
コマ収差 光学収差を理解する:単色収差の分類(2)

 

像面湾曲

像面湾曲は像面が曲率を持つことで発生する収差である。図1上に像面湾曲を持つ光学系の一例を示す。説明のために最もわかりやすい例を挙げているが、各視野からの光線束は曲率を持った面から等距離の位置に結像することを考えると、像面が曲率を持つことは自然に理解できよう。曲率を持った像面に平面の検出器を置くと、円形上のピンボケが視野角の2乗に比例した大きさで現れる。視野角の1乗に比例したボケの大きさを持つコマ収差に対して、視野拡大に伴う収差の大きさの増加率が著しいため、特に広視野な光学系で考慮が必要な収差である。検出器を光軸に沿って移動すると曲率を持つ結像面と検出器面の交線上に(すなわち検出器面上でリング状に)収差が0の部分が現れる(図1 下図左と中央)。このリングの近傍はボケが小さく、リングから離れるにつれてボケが大きくなる。そのため、収差が0となる交線が適当な視野に来るように検出器の位置を調整すれば、視野全体で収差を抑えることができる(図1 下図中央)。

 


図1:(上段)像面湾曲を持つ光学系の光路図。(下段)像面湾曲を持つ光学系において、ベストフォーカス位置で模擬的な星空を
撮影した場合のシミュレーション(中央)とそこから検出器を前後に微小量動かした場合の星像(左右)。
左図では、湾曲した像面と検出器面の交線が検出器端側にあるため、視野の外側の星像がよりシャープに写る。
それに対して右図では交線は検出器中央部にあり、したがって、視野中心付近でシャープな星像が得られる。


 

非点収差

非点収差は像面湾曲と密接な関係にある収差である。この収差は、「レンズの光軸と主光線を含む面(=子午平面という)内の光線群と、主光線を含み子午平面に直交する面(=球欠平面という)内の光線群で焦点距離が異なることで発生する(図2 上図)」という説明をよく見るが次のように考えると像面湾曲との関連性がわかりやすい。異なる視野の子午平面内と球欠平面内の光線の結像点の集合で作られる面をそれぞれ「子午的像面」、「球欠的像面」と呼ぶ(図2 中段図)。これらは像面湾曲によって曲率を持つが、さらにその曲率が異なるときに非点収差が発生する。ベストフォーカス位置では、球面収差のような円形状のボケを発生させる(図2 下図中央)。ただし、ボケの大きさは視野の外側に行くにつれて大きくなる(収差の大きさは、像面湾曲と同じで視野角の2乗に比例する)。また、ここから検出器を光軸に沿って前後にずらすとボケ形状が楕円形に変わる。検出器の移動する向きによって楕円の長軸が方位角方向と放射方向で変化する(図2 下図左右)。方位角方向に伸びた像(図2 下図左)は「ペッツバールレンズ」で撮影された写真と同じようなパターンになっていることにお気づきの方もおられるかもしれない。ペッツバールレンズを用いると「渦を巻いた写真がとれる」と言われているが、ペッツバールレンズは実はこの非点収差が大いに残存したレンズであり、ペッツバールの時代は像面湾曲と非点収差の両方を補正する技術がなかったために、このように像が方位角方向に伸びているだけなのだ。

 


図2:(上段)非点収差を持つ光学系の光路図。(中断)上段の光路図の断面を見たもの。
わかりやすさのため、軸外入射光の球欠平面内の2本の光線はずらして表示している。
(下段)非点収差を持つ光学系において、ベストフォーカス位置で模擬的な星空を撮影した場合の
シミュレーション(中央)とそこから検出器を前後に微小量動かした場合の星の像(左右)。


 

この記事の監修者プロフィール

橋ケ谷 武志(ゲストライター)

京都大学大学院理学研究科 宇宙物理学教室 博士課程在籍。 研究内容は自由曲面を用いた軸外し光学系の開発。

  • お電話でのお問い合わせ

    075-748-1491

    お急ぎの方はお電話にてご連絡ください。
    受付時間:平日10:00〜18:00

  • メールでのお問い合わせ

    MAIL FORM

    フォームよりお問い合わせください。

TOP