2024年6月末にパシフィコ横浜にて開催された国際学会「SPIE Astronomical Telescopes + Instrumentation」において、弊社からは2件のポスター発表を行った。前回は1件目(別所)の内容について紹介したが、今回は2件目(内山)の発表内容について紹介する。
我々は弊社製品の1つである「CGH形状計測装置」について発表した(タイトルは「A freeform mirror profiler with a very wide dynamic range and a high precision」である。アブストラクト等はSPIEページから)。
近年の天文学観測装置には、回折限界光学系の需要の高まりや衛星搭載用の軽量かつコンパクトな装置の必要性から、自由曲面を含む非球面光学系が多用しつつある。自由曲面鏡の製作プロセスは、研削加工によって形状誤差10~100μm程度まで粗加工を行い(1次加工)、研磨加工によって10nmレベルの形状誤差(2次加工)まで精密加工される。この一連の過程においては、10nm~100μmの約4桁にわたる高いダイナミックレンジでの測が必要になるが、一般的な干渉計ではこのような広いダイナミックレンジには対応ができないため、三次元測定機などの別の測定機を併用して行う必要がある。その場合は装置の再セットアップによる手間の発生や、測定器が異なることによるシステマチックな測定誤差が発生してしまう。そこで弊社では、干渉計レベルの測定精度を維持しつつ、かつ高いダイナミックレンジを備えた形状測定器を開発したので、その紹介を行った。
本測定機の特徴は以下の2点である;
① CGHによって自由な形状の波面を生成できるため、自由曲面の測定が可能
② 高精度測定が可能な「干渉計モード」と、大きな面形状誤差が測定可能な「ハルトマンモード」の2つの測定モードを搭載
図1は装置全体の両測定モードの光路の概要図である。CGHの回折によって被検面と参照平面へ照射する2つのビームを生成し、それぞれの反射光を干渉計カメラとハルトマンカメラで撮影することで測定を行う。各モードの切り替えは、光路内部のハルトマンマスクを出し入れすることで可能であり、被検面のセッティングを変える必要が無い。本装置の全体写真を図2に示す。
図1:干渉計モードの光路図(a)と、ハルトマンモードの光路図(b)。
(a)被検面:往路で1次回折し、被検面で反射後、復路で-1次回折する(1,-1)回折光
参照平面:往路で0次回折し、参照平面で反射後、復路で0次回折する(0,0)回折光
(b)被検面:往路で1次回折し、被検面で反射後、復路で0次回折する(1,0)回折光
参照平面:往路で0次回折し、参照平面で反射後、復路で-1次回折する(0,-1)回折光
両モードにおける測定精度やダイナミックレンジは評価済であり、測定精度は干渉計モードで 0.0053µm RMS、ハルトマンモードで 0.055µm RMS、ダイナミックレンジは0.0053~625µmと5桁を実現している(ただしF1.0の鏡面を測定した場合)。また最短測定時間は干渉計モードで106msecであり、研磨機の機上のような振動(例えば~10Hzの振動)が発生する環境での計測も可能である。その他の仕様および評価結果は表1を参照されたい。本装置は受注生産であり、各種アプリケーションに応じたカスタマイズも可能である。本分器に興味のある方はお問合せください。
趣味は天文と写真と車。大学では天文サークルに所属し、暗い空を求めて日本中を飛び回っていた。 天文学を極めるために大学院に進学、在籍中は中間赤外線分光器の開発に従事。 カメラやレンズに関する記事を主に担当。