Aπραξία

光学測定器

波長分解能の定義:どうして波長で規格化するのか?(3)

2024.3.28

波長分解能の定義:どうして波長で規格化するのか?(3)

分光器の性能を示す主要な仕様項目に"波長分解能"がある。波長分解能の定義が「どうしてλと∆λの比なのか?」という疑問に対して、考え得る理由をその1およびその2にて議論した。

最後にもう1つだけ理由を考えてみたい。波長分解能が重要となる分光対象として、プラズマなどの気体(ガス)を構成する原子やイオン、分子から放射される輝線がある。気体から発せられるスペクトル線は一般的に固体や液体からのものに比較して非常に細く、また線同士の密度も高い場合があり、高い波長分解能が必要になることが多い。それらスペクトル線は非常に細いが有限の幅(∆λ)を持っている。スペクトル線が幅を持つ要因としては複数あり、発光源である粒子のエネルギー状態が有限の時間で変化する(例:電子の軌道がある寿命を以て別の軌道に遷移する)ことで発生する”natural broadening”(自然幅)や、粒子同士が衝突相互作用を起こすことによって発生する”pressure broadening”(圧力幅)などがあるが、多くの場合において支配的になるのは”Doppler broadening”(ドップラー幅)である。

 

Doppler broadeningは、その名の通り気体内を構成する粒子が熱運動によって速度を持つため、ドップラー効果によって発光輝線の中心波長が変化することが原因である。個々の粒子はさまざまな速度を持つため、気体からの輝線は異なる中心波長をもった複数の粒子からの発光を重ねて観測することになる。その結果、線幅が広がって見える現象である。この原理に基づけば、広がったスペクトルの線の波長幅(∆λ)と粒子の速度vがなんらかの関係を持つはずである。
振動数\(\nu\)に対する光のドップラー効果の式は、

$$\nu^{\prime} = \nu \sqrt{\frac{1-\frac{v}{c}}{1+\frac{v}{c}}} $$

である。今、\(\Delta\nu=\nu^{\prime}-\nu\)とすると、

 

\begin{align}
\Delta\nu
&= \nu^{\prime} – \nu \\
&= \nu \left((1 – \sqrt{\frac{1-\frac{v}{c}}{1+\frac{v}{c}}}\right)\\
&\simeq \nu \left\lbrace{1 – \left(1-\frac{v}{c}\right)^{2}}\right\rbrace\\
&\simeq \frac{v}{c} \nu
\end{align}

 

となる。ただしここでは\(v \ll c\)と仮定している。この結果、

$$\frac{\nu}{\Delta\nu} = \frac{c}{v} \left(=R=\frac{\lambda}{\Delta\lambda}\right) $$

となることが分かる。つまり波長分解能は光速cと粒子の(視線方向の)速度vの比になるのである。\(\Delta\nu\)は分離可能な振動数の差の最小値であるので、ここでの速度vはドップラー効果によって発生する、気体の速度幅(速度分散)になる。つまり、波長分解能は特定の気体を分光した際に分光器の性能(波長分解能)に左右されずに、本来のスペクトル線の形状(輪郭)が再現可能な最大の熱運動の速度(最大速度)を示しているのである。例えば、ある温度Tの気体のスペクトルの形を正しく測定したい場合、直ちに分光器の必要とされる波長分解能が分かることになる。

 

個人的には、最後の理由が波長分解能を\(R=\frac{\lambda}{\Delta\lambda}\)と定義とした理由として一番尤もらしいと感じているが、その他の理由や本当の経緯について知っている方がおられたらぜひご一報いただきたい。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

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