Aπραξία

光学測定器

赤外線の窓材は何が適切か?(6)

2025.10.23

赤外線の窓材は何が適切か?(6)

「窓(ウィンドウ)」は測定器や実験環境をと外界から隔離するために使用される光学素子であり、一般的にはある直径(角の場合もある)と厚みを持った平行平板である。おそらく最もシンプルな光学素子であると考えられるが、適切な窓材の選定には実に様々な検討項目が存在しており、幅広い知識が要求される。本シリーズでは筆者の贖罪(?)も兼ねて、主に赤外線光学装置に用いられる窓材についてまとめる。

これまでの記事はこちらから:
赤外線の窓材は何が適切か?(1)
赤外線の窓材は何が適切か?(2)
赤外線の窓材は何が適切か?(3)
赤外線の窓材は何が適切か?(4)
赤外線の窓材は何が適切か?(5)

 

今回は「③熱的特性」を取り扱う。実はこの記事を執筆するきっかけは、検討していた窓材の熱的特性を調査したことに端を発する。赤外線の光学測定器の窓材にサファイアかフッ化カルシウムのどちらを採用するか検討していた際に、熱的特性が鍵となって最終的な材料決定に至った。当時の筆者はそのような検討を一切したことがなかったのだが、この経験を通して窓材の熱変形や輻射の重要性を身を持って知ることができた。今回はそれらの検討に必要となる基本的な物理特性を紹介しよう。

 

光学材料に限らず、多くの物質は熱を加えると膨張する。いま長さ\(L\)の棒が温度\(\Delta T\)の変化によって\(\Delta L\)だけ伸びたとき、以下の式が成り立つ(図1)。

$$ \frac{\Delta L}{L} = \alpha \Delta T $$

ここで\(\alpha\)は線膨張係数と呼ばれ、単位温度あたりの長さの変化率である(単位は温度の逆数[/K])。線膨張係数は英語で”Coefficient of Thermal Expansion”といい、現場ではそれらの頭文字をとって「CTE」と呼ばれることもある。線膨張係数はどんな温度においても一定というわけではなく、温度依存性を持つ(つまり厳密には\(\alpha=\alpha(T)\))。図2の左図はサファイアとフッ化カルシウムの様々な温度における熱膨張量、すなわち上式を実際に示した例である。式からもわかるように、図中の曲線の傾き(比例定数)が各温度での線膨張係数に相当する(図2の右)。両図からもわかるように、線膨張係は低温部分と高温部分とでふるまいが異なり、熱膨張を考慮するうえでは使用する温度領域によって用いるべき線膨張係数が変化することに注意が必要である。なお線膨張係数が小さいほど形状変化が少ないので、光学性能の変化が少ないというメリットがある。

 

図1:熱膨張する棒の模式図

図2:熱膨張量の温度変化(左)と線膨張係数の温度変化(右)

 

そもそも物質が熱膨張をするのは、熱(エネルギー)が加わることにより物質を構成している原子・分子の熱振動が大きくなってそれらの間隔が広がるためである。ところが熱を加えても物質構成元素間の距離が変化しなかったり、逆に縮むような物質の組み合わせが存在する。例えばニッケルと鉄の合金であり低膨張材として知られるインバーは、それらの混合比によって線膨張係数が変化することが知られており、ちょうど鉄とニッケルが65:35-36(アトミックパーセント)で混合されたときに非常に低い線膨張係数を示すという特徴がある。インバーの場合は「磁気体積効果」という磁性に伴う体積変化が熱膨張を打ち消すために、ほとんど膨張しない(余談だが、インバー(invar)は、invariable(ほとんど変化しない)に由来する)。ほかにも温度上昇に伴って縮む(原子・分子間距離が小さくなる)物質はいくつか存在し、それらを混合することで低い線膨張を実現する光学材料が開発されている。SCHOTT社のゼロデュアやOHARA社のクリアセラムがその例であり、図3はSCHOTT社の技術資料によるものである。

 

図3:様々な光学材料のCTE(SCHOTT社の技術資料より)

 

様々な光学材料の線膨張係数を表1にまとめる。表1に現れる比熱(\(C_p\))や熱伝導率(k)は次回以降に解説する。


表1:300K付近における光学窓材の熱的特性
$$
\begin{array}{lccc}
\textbf{Material} & \textbf{CTE [×10^-6/K]} & \textbf{C_p [J/g·K]} & \textbf{k [W/m·K]} \\
\hline
\text{LiF} & 34.4 & 1.55 & 11.3 \\
\text{KBr} & 38.5 & 0.44 & 4.8 \\
\text{KCl} & 36.6 & 0.69 & 6.7 \\
\text{NaCl} & 40.0 & 0.84 & 6.5 \\
\text{CaF}_2 & 18.9 & 0.85 & 10 \\
\text{Sapphire(//}_c) & 5.0 & 0.75 & 35.1 \\
\text{Spinel} & 5.6 & 0.88 & 14.6 \\
\text{ZnS (multispectral)} & 7.0 & 0.47 & 27 \\
\text{ZnSe} & 7.6 & 0.34 & 18 \\
\text{GaAs} & 5.7 & 0.32 & 55 \\
\text{Ge} & 6.1 & 0.31 & 59 \\
\text{Si} & 2.6 & 0.75 & 163 \\
\text{Fused SiO}_2 & 0.52 & 0.74 & 1.4 \\
\text{Zerodur(c)} & 0.05 & 0.82 & 1.46 \\
\text{Diamond} & 0.8 & 0.52 & 2000 \\
\end{array}
$$

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