Aπραξία

結像光学系

レンズにおいて球面収差が発生しない形状(2)

2025.2.13

レンズにおいて球面収差が発生しない形状(2)

無限遠にある物体に対して球面収差を生じないミラー形状が「放物面(パラボラ:parabola)」であることはよく知られている事実であるが、「レンズにおいて無収差となる形状は?」という質問に対して、間髪入れずに答えられる技術者は意外に少ないかもしれれない。前回の記事では数式を用いて球面収差が発生しないミラー形状はパラボラであることを導いた。今回はいよいよレンズ面の形状を求めていこう。

以下の図は前回の記事で取り扱った「平行光を無収差で集光する凹面ミラーの形状を得るための模式図」のレンズ版である。レンズは入射面側が平らな平凸レンズとする。もちろん両面が曲率を持つレンズでもよいのであるが、ミラーと異なりレンズには光学的な屈折力を持つ面(パワーを持つ面)が2面あるので、両方にパワーを持たせると解が無数に存在することになる。ここでは、ミラーと同じ条件にするために(解が一意に決まるように)入り口側の形状を固定値(平面)とした。前回の記事の図1と同様にYZ平面を定義し、曲面の頂点座標を原点\(\mathit{o}\)とする。ただし、今回はZ軸の正の方向は紙面の右側にとる(光線が右側に結像するため)。光線が集光する焦点を\(F(f,0)\)とする。また、面の形状は凸面であり、その形状は\(z=z(y)\)で与えられる。

 


図 2:平行光を無収差で集光する平凸非球面レンズの形状を得るための模式図


 

ここまで準備すればあとは放物面と同じように考えればよい。つまり、光軸から軸から任意の高さyの光線を考え、この点が凸面と交わる点を点\(A\)としたとき、\(A\)で屈折した光線は無収差の場合はFに到達するので、「屈折点\(A\)から焦点までの距離\(\overline{AF}\)=光軸上を進む光線の光路差」という条件式を立てればよい。ただ、一点だけ注意がある。光軸上の光路差は面の頂点\(\mathit{o}\)から\(F\)までの距離と、高さyの光線が光軸上の光線に対して\(z(y)\)だけ先に屈折面に到達する分を加えたものであるが、\(z(y)\)はレンズ内であり屈折率\(n\)の媒質を進ため光路差は\(z(y)\)ではなく\(nz(y)\)である。したがって、条件式は\(AF=\mathit{o}F+nz(y)\)となり、これが放物面との違いになる。

 

放物面の場合と同様に図から\(AF\)と\(\mathit{o}F\)を求めて\(z(y)\)を求めるだけなのであるが、屈折率\(n\)がかかっていることが原因で方程式は\(z(y)\)の2次式になる。ちょっと複雑なので気分が萎えてしまいそうだが、なんとか頑張って解いてみると以下のような形になる。

$$ z(y) = \frac{y^2}{2fn} \frac{1}{1+\sqrt{1-(1-n^2)\frac{y^2}{\left(2fn\right)^2}}} \tag{1}$$

かなり複雑な式に見えるが、ZEMAXやCodeVなどの光線追跡ソフトウェアを普段使用されている方であれば、これがいわゆる非球面の代表形状である円錐面(コーニック面)の形状を示す式と同じ形であることはすぐに気づくかもしれない。円錐面(コーニック面)形状は以下で定義される。

$$ z(y) = \frac{y^2}{R} \frac{1}{1+\sqrt{1-(1-k)\frac{y^2}{\left(R\right)^2}}} \tag{2}$$

ここで\(R\)は曲面の頂点での曲率半径、\(k\)は円錐係数(コーニック係数)と呼ばれるもので非球面度を表すパラメータである、\(k=0\)で円(球面)、\(k=-1\)で放物線(放物面)、\(-1 < k < 0,k > 0\)で楕円(楕円面)、\(k<-1\)で双曲線(双曲面)となり、この式一つで基本的な非球面(2次曲面)を網羅できるので便利な式である。式(1)とこの円錐面の式(2)を比較すると、 $$ R = -2fn \tag{3}$$ $$ k = -n^2 \tag{4}$$ であることが分かる。レンズで使用される材料であれば一般に\(n>1\)あるので、円錐係数が満たす条件として\(k<-1\)が得られる。つまり、平行光に対して理想結像が得られる平凸レンズの面形状は「双曲面」であり、これが欲しかった答えである。

 

ちなみに、式(4)に対して\(k=-1\)とすると、解の一つとして\(n=-1\)が得られる(\(n=1\)も解であるが、これはレンズ面で屈折を生じないので意味のない解である)。以前の記事で紹介した通り、反射の法則はスネルの法則に対して屈折率\(n=-1\)とした場合に相当している。よって、上式は放物面の場合も内包した、より一般的な式であることが確認できる。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

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