無限遠にある物体に対して球面収差を生じないミラー形状が「放物面(パラボラ:parabola)」であることはよく知られている事実である。衛星放送用のアンテナに用いられる"パラボラアンテナ"という言葉が一般語になっていることからも想像に難くない。しかしながら、「(ミラーではなく)レンズにおいて無収差となる形状は?」という質問に対して、間髪入れずに答えられる人は技術者であっても意外に少ないかもしれれない(むしろ「そんなことはないだろう?」と思った方はこの記事はレベルが低すぎるので、今の時間を是非もっと別の有意義なことに充てていただきたい…)。そこで今回は「レンズにおいて球面収差が生じない形状」について解説してみたいと思う。
いきなりレンズの話に入ってもよいのだが、助走と復習もかねて、まずは収差の生じないミラー形状が放物面であることを再度導いてみる。凹面を置いた図1のような座標系を考える。ミラーの頂点はZY座標系の原点\(\mathit{o}(0,0)\)にあるとする。ここで計算の簡素化のために、敢えて図の左側をZ軸の正の方向とする。また凹面の形状は\(z=z(y)\)で与え、凹面の頂点での曲率半径をRとする。近軸理論によれば焦点は、\(F(\frac{R}{2},0)\)に存在することになる。ここで光軸から任意の高さyの光線を考える。この点が凹面と交わる点を点Aとする。
図1:平行光を無収差で集光する凹面ミラーの形状を得るための模式図
凹面で反射したこの光線は、無収差であれば点Fに集まるはずである。波動光学的には収束光が一点に集まるのは、”互いの光路長が同じである”ことに相当する 。したがって、「高さyの反射点Aから焦点F」までの距離と「光軸上の頂点Oで反射して焦点Fに到達する光線」の光路差は同じはずであり、\(AF=OF+z(y)\)の条件を満たさなければならない。ここでOFにz(y)を加えているのは、高さyの光線の反射点Aは、光軸上を通る光線の反射点Oに対してz軸に沿ってz(y)だけ左にずれており、光軸光はその分だけ伝搬距離が長くなっているからである。
さらに図から、
$$ AF^{2} = \left(z(y) – \frac{R}{2}\right)^2 + y^2 $$
$$ OF = \frac{R}{2} $$
であることがわかるので、この式を代入して整理すると、
$$ z(y) = \frac{y^2}{2R} $$
が得られる。これはまさに放物面(放物線)の式であり、平行光を集光する場合の凹面ミラーの理想形状が放物面であることが分かった。次回はいよいよ目的である、平行光に対して理想結像が得られるレンズ面の形状を求めてみたい。
大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。