Aπραξία

回折光学素子

波動光学を理解する(1)

2024.2.15

波動光学を理解する(1)

本シリーズでは、波動光学について理解を深めるために、数式などを用いながら教科書的に説明していく。第1回目はその序章として、光学における「光の取り扱い方」についてまとめる。

光学において、光を取り扱う方法は大きく3つに分けることが出来る。

 

幾何光学

光を光線の束として取り扱う方法。光線は「スネルの法則」と「反射の法則」に従うと仮定する。すなわち、スネルの法則に従い、光は屈折率が一様な媒質中では直進し、屈折率が変化する境界面では屈折・反射する。反射は反射の法則に従う。各光線に対して独立に計算を行うことが出来るため、空間の屈折率分布が与えられれば容易に光の伝搬を計算出来る。ただし、回折・干渉の効果が無視できない微少な距離での伝搬や、光と波長スケールの構造との相互作用等は正しく計算することが出来ない。

 

波動光学

光を波として取り扱う方法。光を古典的に記述する電磁気学によって、光は電場と磁場の波動であることが分かっており、波動光学は実際の物理原理により即した取り扱い方である。そのため幾何光学とは異なり、スネルの法則と反射の法則を仮定せずとも、自ずとその性質が表れる。回折・干渉の効果を含めて光の伝搬が計算可能である。ただし、波動は空間的に広がりを持ち重ね合わせの原理があることから、特定の場所の光の伝搬計算であっても全体を考慮する必要があり、一般に計算が困難となる。波動光学において波長\(\lambda \rightarrow 0\)の極限が幾何光学である。

 

量子光学

光を光子として取り扱う方法。光を量子的に記述する量子電磁気学において、光は電磁場の励起、すなわち光子であることが分かっており、量子光学は現時点で最も原理的に正しい取り扱い方である。光子が場の量子論に従って記述され、量子力学的振る舞いまで含めて光の正しい取り扱いが可能である。ただし、ブラックホール近傍など強い重力場が存在する状況下での量子電磁気学の正しい定式化は現時点で分かっておらず、そのような状況においては計算が行えない。また計算可能な場合でも、「繰り込み」等の光度な計算が必要となり、容易ではない。量子光学においてプランク定数\(h \rightarrow 0\)の極限が波動光学である。これは光の強度が十分強く(光子数が十分多く)、光子集団が統計的に振る舞う極限に対応する。

 

今後数回にわたり波動光学の種々の取り扱いについて見ていく。これにより、電磁波としての光の性質である回折・干渉の定量的な取り扱いについて理解することが目標である。なお幾何光学・量子光学についてはまたの機会に譲る。

この記事の監修者プロフィール

別所 泰輝

大学院在学中は素粒子物理学を専攻。趣味の天体写真も物理理論に裏付けられた解析方法を行っており、 アマチュア天文家の間で蔓延している都市伝説は一切信じない。赤道儀マニアでアマチュア天文機器にやたら詳しい。 計算機ホログラム(CGH)や干渉計などの高度な物理計算を軽々とこなす。 光学・物理学に関連する原理や数学的理解に関する記事を担当。

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