Aπραξία

結像光学系

波面収差の定量化:波面収差の定義とその定式化(2)

2025.4.24

波面収差の定量化:波面収差の定義とその定式化(2)

本シリーズでは、収差の表現を波面収差と呼ばれるものに拡張し、その定式化を目標にする。前回の記事では波面収差関数を紹介したが、今回はその各項を詳細に見ていこう。

おさらいではあるが、光学系が回転対称かつ(光軸を含んだ)平面対称である場合、波面収差関数は以下の形式で記述できる。

\begin{align}
W(\vec{\rho}, \vec{H}) =\
& W_{000} + W_{020}(\vec{\rho} \cdot \vec{\rho}) + W_{111}(\vec{H} \cdot \vec{\rho}) + W_{200}(\vec{H} \cdot \vec{H}) \notag \\
& + W_{040}(\vec{\rho} \cdot \vec{\rho})^2 + W_{131}(\vec{H} \cdot \vec{\rho})(\vec{\rho} \cdot \vec{\rho}) + W_{220}(\vec{H} \cdot \vec{H})(\vec{\rho} \cdot \vec{\rho}) \notag \\
& + W_{222}(\vec{H} \cdot \vec{\rho})^2 + W_{311}(\vec{H} \cdot \vec{H})(\vec{H} \cdot \vec{\rho}) \notag \\
& + W_{400}(\vec{H} \cdot \vec{H})^2 + \cdots
\end{align}

この展開式において\(n=i+j\)をその項の”次数”と呼ぶ。

 

\(n=0\)(0次)の項

\(n=0\)(0次)の項は\(W_{000}\)のみである。\(W_{000}\)は視野\(\vec{H}\)、瞳座標\(\vec{\rho}\)のいづれにも依存しないことからわかるように、注目する波面が理想球面波に対して相似である状況に相当し、像面上でボケを作らない(図1)。つまり、波面収差の定数成分であり、波動光学における初期位相の項に相当する。したがって、干渉計のような波面の絶対位相が重要になるアプリケーションを除き、多くの場合は無視される項である。

 

図1:\(W_{000}\)の波面収差の断面図

 

\(n=2\)(2次)の項

\(n=2\)(2次)の項は\(W_{200}(\vec{H} \cdot \vec{H})\)と\(W_{111}(\vec{H} \cdot \vec{\rho})\)と\(W_{020}(\vec{\rho} \cdot \vec{\rho})\)である。まず\(W_{200}(\vec{H} \cdot \vec{H})\)から考える。この項は、\(\vec{\rho}\)の依存性を持たない。したがって、\(W_{000}\)で説明したように波面収差の定数成分になる。\(W_{000}\)との違いは、その定数成分が視野の2乗に比例して大きくなることだが、これは視野ごとの光路長の違いを表している。インコヒーレントな結像の場合は、視野間に光路差があっても像面上でボケを作らないので、多くの場合は無視される項である。次に、\(W_{111}(\vec{H} \cdot \vec{\rho})\)を考える。この項を式変形すると\(W_{111}(\vec{H} \cdot \vec{\rho})=W_{111}(H_x\rho_x+H_y\rho_y)\)となり、\(\vec{H}\)を固定したとき\(\vec{\rho}\)の1次式となることが分かる。したがって、図2の左に示すように波面収差の傾斜成分を表すものである。この成分を持つとき、波面は形状を保ったままその向きを変えることになるため、それによって像面での結像点の位置が変化するだけである。また、そのずれ量は視野中心からの距離に比例して大きくなる(図2の右)。以上より、\(W_{111}(\vec{H} \cdot \vec{\rho})\)は評価する光学系の近軸横倍率が想定したもの(例えば設計値)からずれている状態に相当する。最後に、\(W_{020}(\vec{\rho} \cdot \vec{\rho})\)について考える。この項を式変形すると\(W_{020}(\vec{\rho} \cdot \vec{\rho})=W_{020}(\rho_x^2+\rho_y^2)\)となり、放物面形状をした収差であることが分かる。波面に放物面形状が不可されると、結像位置の光軸方向のずれ、すなわちデフォーカスが発生する(図3)。また、この項に\(\vec{H}\)が含まれないことから、デフォーカス量は視野一様であり(図3の右)、つまりピンボケの効果を波面ベースで見たものに相当することが分かる。

 

図2:(左)\(W_{100}\)の波面収差の断面図
(右)視野の各点での\(W_{100}\)の形状をカラーマップでプロットしたもの

 

図3:(左)\(W_{020}\)の波面収差の断面図
(右)視野の各点での\(W_{020}\)の形状をカラーマップでプロットしたもの


この記事の監修者プロフィール

橋ケ谷 武志(ゲストライター)

京都大学大学院理学研究科 宇宙物理学教室 博士課程在籍。 研究内容は自由曲面を用いた軸外し光学系の開発。

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