Aπραξία

結像光学系

金属が反射する理由(わけ):その1

2024.10.10

金属が反射する理由(わけ):その1

以前の記事で、多層膜による反射コーティングの話題を取り上げた(多層膜による増反射(1)および多層膜による増反射(2))。ただ、光学においては"反射コーティング"といえば金属膜の方が一般的であろう。本稿では、そもそも金属膜(金属表面)でなぜ光が反射されるのかについて解説してみたい

金属が光を反射する理由は、厳密にはその波長帯によって異なる。ただ、どんな金属であっても波長が長い領域(赤外線や電波の領域)においてはほとんどの金属が電磁波を反射する性質を有しており、その理由は共通している。その役割を担っているのは固体金属の中にある”自由電子”と呼ばれる電子である。誘電体のような金属以外の固体においては、電子は原子核に束縛された状態にあり、その所属(どの原子核に捕らわれているのか)はほぼ決まっているため電子はその場所から移動することは叶わない。まるで”電気力”という鎖でつながれた飼い犬のようなものである。ところが、金属の中に存在する自由電子はその名の通り、所属先の原子核(飼い主)を持たない”野良電子”であり、固体中のどこへでも移動可能な状態にある(これが、金属に電圧をかけると電気が流れる理由でもある)。固体中では原子核本体が移動することができないので、金属は”自由電子の海の中に原子核が浮いている状態”とも言えるのである。

 

さて、このような自由電子の海に光(電磁波)が入射する場合を想像してみる。入射波の振動数(\(\nu\))が非常に小さい(波長が非常に長い)場合(=ケース1)、入射波が作る電場に反応して内部の電子は移動できる。振動数が小さい、つまり電場の変化がゆっくりであるため、電子は電場の変化に完全に追随して移動するが、自由電子はなんら束縛を受けていないため(元に戻る反発力がないため)、移動後も自ら元の場所に戻ろうとはしない(図1)。電磁波の立場からすると、電子を動かしても何のリアクションも手ごたえもないという状態である。ここで、自由電子を切れたキターの弦に置き換えるとイメージしやすいかもしれない。切れた弦をはじいても(=力を加えても)、弦ははじかれた方向に振れただけで戻ってこないし、振動もしない。つまり音は出ない。”振動しない”ということは、”自由電子の海”の中では電場の振動現象である光は発生しないことになる。その結果として、入射光は金属から入射側の媒質(例えば空気中)へと押し戻され、それが反射光となるのである。これが、長い波長の光が反射する定性的な説明である。

 

図1:波長の長い光が金属に入射する場合の模式図

 

では、振動数(\(\nu\))がとても大きい(波長が非常に短い)場合(=ケース2)はどうなるだろうか?この場合、入射した電磁波の電場の変化のスピードに自由電子の移動が(慣性のため)追い付かなくなる(図2)。いくら軽い電子といえども電場の変化に合わせて振動できるスピードには限界があるのだ。究極的には、電磁波の振動に対して電子はもはや止まってしまうので、電磁波は大きな影響を受けることもなく、まるで真空の中を伝搬するように電磁波は金属の内部を進むことになる(つまり、光は金属を通過する)。これが、波長の短いX線や\(\gamma\)線が金属を通過する理由である。

 

図2:

 

このケース1とケース2の境目になる振動数が存在し、それは”プラズマ振動数(\(\nu_p\))”と呼ばれている。次回はこのプラズマ振動数の数式から、より定量的な性質を探ってみたい。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

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