
Computer Generated Hologram(計算機生成ホログラム、CGH)は、光の回折・干渉の効果を使い、任意の方向に光を飛ばす(波面を作る)ことが可能な光学素子である。CGHをはじめとする回折光学素子に入射した光エネルギーのうち、目的の出射光になる割合を「回折効率」 と呼ぶが、今回は回折効率の計算方法を説明しよう。
CGHのような回折光学素子は入射光を回折・干渉させ、出射光を作り出す。得たい出射光がある特定の次数の干渉光であったとしても、残念ながら一般にはその他の次数の干渉光も同時に出射される。回折光学素子に入射した全光エネルギーのうち、目的の出射光になる割合は「回折効率」と呼ばれる。弊社でもよく作成している非球面ミラーの形状測定のための波面生成用CGHなど、CGHのパターン周期が波長に比べて十分大きく(=光の偏光の影響を無視することができる)、かつCGHと出射ビームを当てる対象との距離が波長に比べて十分長い(=Far-field領域)場合、CGHの出射光はスカラー(Scaler)回折理論のフラウンホーファー(Fraunhofer)回折によって良く近似できる。フラウンホーファー回折の詳細については別の記事にて解説予定であるので、ここではその結果だけ援用しよう。
フラウンホーファー回折:
開口面での光の複素振幅\(A(x’,y’)\)が与えられたときに、そこから\(z\)だけ離れたスクリーン上にできる光の複素振幅\(U(x,y,z)\)は次の式で与えられる:
\begin{align}
U(x,y,z) &\approx \frac{e^{ikz} e^{ik(x^2+y^2)/2z}}{i \lambda z} \iint A(x’,y’)\, e^{-i \frac{k}{z} (x’ x + y’ y)}\, dx’ dy’ \tag{1}\\
&\propto \iint A(x’,y’)\, e^{-i \frac{k}{z} (x’ x + y’ y)}\, dx’ dy’ \tag{2}
\end{align}
ただし、\(i\)は虚数単位、\(e=2.71828\dots\)はネイピア数、\(\lambda\)は光の波長、\(k=\frac{2\pi}{\lambda}\)と書ける波数、\((x,y,z)\)はスクリーン上の座標、\((x’,y’)\)は開口面上の座標を表す。1行目から2行目の式変形で、\(z=\text{(定数)}, z\gg x,y\)として、積分の前の係数を定数として近似している。

図1:フラウンホーファー(Fraunhofer)回折
非常に重要なのは、フラウンホーファー回折の積分は開口面での光の複素振幅\(A(x’,y’)\)の波数\(f_x=\frac{x}{\lambda z}, f_y=\frac{y}{\lambda z}\)におけるフーリエ変換になっている点だ。すなわち、開口面での光の複素振幅のフーリエ変換がスクリーン上の複素振幅となることを意味する。
回折効率:
上記のフラウンホーファー回折の式を回折光学素子に適応することで、回折効率を求めることができる。回折光学素子は多くの場合、その射出瞳における複素振幅パターンが繰り返しの周期構造を持つ。その周期構造を1周期分だけ取り出し、フーリエ級数展開を行うことで、開口面での光の複素振幅\(A(x’,y’)\)は一般に次のように表すことができる:
\begin{align}
A(x’,y’) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_{mn} \, e^{i \frac{2 \pi m}{p_x}x’} e^{i \frac{2 \pi n}{p_y}y’} \tag{3}
\end{align}
ただし、\(p_x, p_y\)は周期構造の\(x,y\)それぞれの方向の空間周期を表す。
フラウンホーファー回折の式(2)は\(A(x’,y’)\)に対して線形であるので、式(3)を代入することで次のように式変形できる:
\begin{align}
U(x,y,z) &\propto \sum_{m=-\infty}^{\infty} \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_{mn} \iint e^{i \frac{2 \pi m}{p_x}x’} e^{i \frac{2 \pi n}{p_y}y’} \, e^{-i \frac{k}{z} (x’ x + y’ y)}\, dx’ dy’ \tag{4}\\
&= \sum_{m=-\infty}^{\infty} \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_{mn} \iint e^{2\pi i \left(\frac{m}{p_x}-\frac{x}{\lambda z} \right)x’} e^{2\pi i \left(\frac{n}{p_y}-\frac{y}{\lambda z} \right)y’} \, dx’ dy’ \label{before_delta} \tag{5}\\
&= \sum_{m=-\infty}^{\infty} \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_{mn} \, \delta \left(\frac{m}{p_x}-\frac{x}{\lambda z}\right) \delta \left( \frac{n}{p_y}-\frac{y}{\lambda z} \right) \tag{6}
\end{align}
式(5)から式(6)の変形で、以下のDirac \(\delta\)関数のフーリエ変換による表現を用いた。
\begin{equation}
\delta(x) = \int_{-\infty}^\infty e^{2\pi i k x} \, dk \tag{7}
\end{equation}
式(6)から分かるように、スクリーン上の複素振幅\(U(x,y,z)\)は、\((m,n)\)に応じた各位置\(x=m\frac{\lambda z}{p_x}, y=n\frac{\lambda z}{p_y}\)にある複素振幅\(C_{mn}\)の無限小のスポットを足し合わせたものとなっている。これはすなわち、各スポットが各次数光に対応していると理解できる。したがって、各次数光の強度を求めたければ、各次数光の複素振幅の絶対値の2乗、すなわち\(|C_{mn}|^2\)を求めればよい。これにより、回折光学素子の回折効率を計算することができる。
ここでの理論展開では開口の複素振幅\(A(x’,y’)\)が無限に広がっている場合の計算となっているため式(6)にDirac \(\delta\)関数が表れているが、現実の回折光学素子の場合は開口の複素振幅\(A(x’,y’)\)は有限サイズであるため、Dirac \(\delta\)関数とはならず、開口の形状に応じてBessel関数やSinc関数となる点に注意が必要である。
大学院在学中は素粒子物理学を専攻。趣味の天体写真も物理理論に裏付けられた解析方法を行っており、 アマチュア天文家の間で蔓延している都市伝説は一切信じない。赤道儀マニアでアマチュア天文機器にやたら詳しい。 計算機ホログラム(CGH)や干渉計などの高度な物理計算を軽々とこなす。 光学・物理学に関連する原理や数学的理解に関する記事を担当。