石英ガラスのレーザー耐性とOH含有量(1)では、石英ガラスにエキシマレーザーを照射した際に見られる透過率の低下現象(ソラリゼーション)の原因が、レーザー照射に伴うSi-O間の結合が途切れたことに伴う格子欠陥であることを紹介した。今回はソラリゼーションの軽減とOH含有量の関係について紹介しよう。
エキシマレーザーによって生成されてしまった格子欠陥(不対電子)は、その後どうなるのだろう?実は合成石英は生成手法によってOH基を含む場合と含まない場合がある(詳しくは各メーカーの石英ガラスにて)。OH基も紫外線によってSi-OH間の結合が切られることがある。このOH基はとてつもなく反応性がよく、レーザー照射によって欠陥が生じた部分に入り込んだり、格子欠陥部分とそのまま結合したりして、ガラス内の欠陥部を補完する役割を担うのだ。東ソー・エスジーエムのwebページによると、OHの含有量が多いほど、エキシマレーザー耐性が上がっていることがわかる。さらにこのガラスに対し、更に反応性のよい水素(水素分子)やフッ素などを添加(ドープ)することで、この欠陥部の補完をより効率よく行えることが知られている。一説によれば、Si-O間の結合が切れた間にHがすかさず入り込み、構造を補完することでソラリゼーションの抑制ができるようだ。
現在ではOH含有量や水素分子、フッ素などのドープ量を調整し、ソラリゼーションが発生しない石英ガラスの製造方法が編み出されており、特許が取得されているものも多い。私のバックグラウンドは赤外線天文学のため、学生時代は石英ガラスに含まれるOH基は少なければ少ないほど良いと学んできたのだが、レーザー耐性という観点は目からウロコであった。これからはOH基を敵視(?)せず、適切な用途に応じて適切な石英ガラスの選定ができるように研鑽を積みたいと思う。
大学院在学時に携わった分光観測、低温実験とデータ解析をきっかけに、 実験・データ解析のサポートビジネスを創案。エストリスタを立ち上げ業務に従事する傍ら、 購買から経理までバックオフィス関連業務を一手に担う。 光学に関する素朴な疑問や分光・天文学に関する記事を主に担当。