天体写真における「ノイズ」の正体 その2

2023.10.19

天体写真における「ノイズ」の正体 その2

「天体写真における「ノイズ」の正体 その1」で、「誤差」とは「正しい天体のシグナル」と「実際に得られたシグナル」との”差”で、「系統誤差」と「偶然誤差」の二種類に大別されることと、このうち偶然誤差がノイズであることを説明した。今回はそれらに含まれる具体的な誤差・ノイズとその特性について紹介する。

前回の記事にて、誤差は「系統誤差」(何回測定しても、毎回生じる同じ量のズレ)と「偶然誤差」(何回観測しても再現性のないズレ、ノイズと呼んでいるもの)とに大別されることを紹介した。天体写真を撮影する中でみられるノイズや現象を例として、それらの誤差に含まれるものを具体的に見ていこう。

 

系統誤差としては大まかに以下のものが挙げられる。

 

  • 光害/背景光 (天文学者は単にSkyと呼ぶこともある)
  • CCD/CMOSのバイアス
  • ダーク (ダーク”ノイズ”とは異なるので注意)
  • CCD/CMOSのピクセル感度ムラ
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    他方、偶然誤差(ノイズ)としては大まかに以下のものが挙げられる。

     

  • 天体光に含まれるフォトンノイズ
  • Skyに含まれるフォトンノイズ
  • フラット画像に含まれるフォトンノイズ
  • ダーク画像に含まれるフォトンノイズ (いわゆるダークノイズ)
  • リードアウトノイズ
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    続いて言葉を1つずつ説明しよう。

     

     

    系統誤差

    ・光害、背景光 (Sky)

    本来撮影したい天体からの光(=真の値)に加え、地球大気の発光や光害(街明かりなどが地球大気で散乱されたもの)由来の光が加わってしまうことがある。このような天体以外の光のことを「背景光」(またはSky)と呼ぶ。

     

    ・ダーク (ダーク”ノイズ”ではないことに注意!)

    CCDやCMOSといった検出器は、内部光電効果と呼ばれる物理現象を用いて入射した光(光子)を電子に変換している。しかし光が入射しなくても、CCDのピクセル内では一定の確率で電子が発生する(これを熱電子という)。この熱電子のことを「ダーク」と呼び、本来の光の入射によって発生する電子とは異なるので系統誤差となる。熱電子の発生量は検出器の温度に依存し、温度が高くなると莫大に増える。これが「熱」電子という名前の由来になっており、CCDやCMOSを冷却するのはこの熱電子の発生を抑えるためである。また光が入射していない(暗い)状態にもかかわらず電子が発生して電流が流れることから、ダークは「暗電流」とも呼ばれる。

     

    ・バイアスカウント

    CCDやCMOSでは、出力値のばらつきによりピクセルが負の値にならないよう、露出時間がゼロの状態でもあらかじめ若干の正のカウント値を持つように設計されている。この「下駄分」に相当するカウント値をバイアスカウントという。

     

    ・CCD/CMOSの感度ムラ

    CCDやCMOSカメラなどの検出器には、製造の過程でどうしてもピクセル毎の感度にバラツキが生じる。これをピクセル感度ムラという。この感度ムラを補正するために、検出器を一様な光源(フラット光源)で照らした「フラット画像」を撮影することで、感度ムラのマップを得ることができる。

     

     

    偶然誤差(ノイズ)

     

    ・天体からの光に含まれるフォトンノイズ

    ・Skyに含まれるフォトンノイズ

    ・フラット画像に含まれるフォトンノイズ

    これらは別の記事で詳しく説明するが、天体・背景光(Sky)・フラット光源からやってくる光子は常に一定の数が検出器に届いているかと思いきや、必ずしも行儀よく等間隔にはやってこない。その結果、撮影するタイミングによって得られるカウント値が異なる、ということは読者の皆様も経験があるのではないだろうか?この値のばらつきこそが誤差の要因になり、これはカメラの性能には無関係で減らすことができない性質のものである。

     

    ・ダーク画像に含まれるフォトンノイズ (いわゆるダークノイズ)

    「フォトン(光子)ノイズ」とはいえ、このノイズには光子は関係しない。統計誤差の項で述べたように、ダークは熱電子が一定の確率で発生することによって生じるが、単位時間当たりに発生する熱電子の数は測定タイミングによって異なる。このばらつきのことをダークノイズという。

     

    ・リードアウトノイズ

    CCDやCMOSの各ピクセルに貯まった電子を電気回路で読み出す際に、この電気回路内で電子が発生する。この読み出し時に発生するノイズのことをリードアウトノイズという(#このノイズはガウス分布に従う、今後の記事で詳しく解説)。

     

     

    今回の記事で特筆すべきは、偶然誤差に含まれる

     

    ・天体からの光に含まれるフォトンノイズ

    ・Skyに含まれるフォトンノイズ

    ・フラット画像に含まれるフォトンノイズ

     

    の3つの「フォトンノイズ」は、カメラや機材の性能に一切関係ない(減らすことも出来ない)ということ。

     

    これでは「えー!?ノイズが減らせないじゃないか、困った!」と思うかもしれないが、画像処理の1つである「コンポジット」という操作によって、シグナルとノイズの比(S/N)を高めることができ、実際は上手く対処することが可能なのだ。

     

    次回はノイズとS/Nの違いについて説明しよう。

    この記事の監修者プロフィール

    別所 泰輝

    大学院在学中は素粒子物理学を専攻。趣味の天体写真も物理理論に裏付けられた解析方法を行っており、 アマチュア天文家の間で蔓延している都市伝説は一切信じない。赤道儀マニアでアマチュア天文機器にやたら詳しい。 計算機ホログラム(CGH)や干渉計などの高度な物理計算を軽々とこなす。 光学・物理学に関連する原理や数学的理解に関する記事を担当。

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