今年は春先の12P/Pons-Brooks彗星に続き、C/2023 A3(Tsuchinshan-ATLAS、以下「紫金山-ATLAS彗星」)も明るくなるという、久しぶりの「彗星イヤー」である。すでに夜明けの空に見えているため、実際に観測された方も多いのではないだろうか。
紫金山-ATLAS彗星は、中国の紫金山天文台とATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)によって独立に発見された彗星(より正確には紫金山天文台で発見され一度見失ってしまった後、ATLASで再発見された)である。発見時の明るさや軌道の条件から、当初はこの秋には眼視彗星になるのでは?と予想されていたこの彗星。ところがその後に観測を続けたところ、もはや明るくならないのではないか?とか、彗星核が崩壊してしまうのではないか?という予測がなされ、その後の明るさ予測は一気にトーンダウンしてしまった。。。2023年夏ごろまでの「紆余曲折」については星ナビ10月号にて解説しているので、詳細はそちらを参照されたい(9月初旬に発売されていて、最新刊ではありません)。
ところが嬉しいことに、現在はそのトーンダウンした予想光度よりも明るくなっているという報告がなされているようだ。プロアマ問わず彗星の明るさが多数報告されているCOBS(Comet Observations database)によると、予想光度は10月初旬でおよそ2.4等程度であるものの、9/30の段階ですでに2.0等〜1等台であるという報告が散見される。嬉しい方向に予想が外れて大変ハッピーではあるものの、なぜ紫金山-ATLAS彗星がこのようなふるまいを見せるのか?という疑問はまったく解明されていない。様々な観測データを元に、紫金山-ATLAS彗星で具体的に何が起こっているのかを検討するのが研究の楽しいところ(あるいは上手な解釈が見いだせずに苦心するところ)である。現在は彗星が太陽に近づいており、観測がしにくい状況が続いているが、10月中旬〜後半には夕方の空に見られるようになる。またこのような状況下でも世界中で様々なデータが取得されており、先日はすばる望遠鏡の施設内に設置されている「星空カメラ」にて、紫金山-ATLAS彗星が見られたことが話題になっていた(動画はこちらから)。我々のグループでも、10月後半には大型望遠鏡を用いた観測が待っている。なんとかそれまで明るさが保ってくれることを期待している。
とはいえ、観測を成功させるにはこれまでに取得された観測結果やデータの情報収集が欠かせない。大変幸運なことに、ちょうど週明けの10/7から、アメリカ天文学会の惑星科学部会(Division for Planetary Science)の年会が開催され、世界各所の彗星研究者が一堂に会する機会がある。毎年10月初旬に開催されるため、今回がたまたま紫金山-ATLAS彗星の観測機会と被ったというわけではないのだが、彗星の分野では紫金山-ATLAS彗星が最もアツい話題の1つになるだろう。筆者も(紫金山-ATLAS彗星のネタではないが)自身の研究成果の発表に行く予定にしている。もし機会があればその報告もコラム内でできればと思うので、全力で楽しんできます。
大学院在学時に携わった分光観測、低温実験とデータ解析をきっかけに、 実験・データ解析のサポートビジネスを創案。エストリスタを立ち上げ業務に従事する傍ら、 購買から経理までバックオフィス関連業務を一手に担う。 光学に関する素朴な疑問や分光・天文学に関する記事を主に担当。