本シリーズでは、各社におけるカメラの手振れ補正機構について、名称の違いから性能の指標について解説をしてきた。前回に引き続き、手振れ補正機構の各種原理について解説する。
これまでの記事については以下より復習いただきたい。
各社における名称の違い 各社のカメラ用語の違い1:手ぶれ補正 その1
手振れ補正の性能を表す用語 各社のカメラ用語の違い1:手ぶれ補正 その2
手振れ補正の性能を表す用語(その2の続編) 各社のカメラ用語の違い1:手ぶれ補正 その3
レンズ内手振れ補正の原理 各社のカメラ用語の違い1:手ぶれ補正 その4
ボディ内手振れ補正の原理 各社のカメラ用語の違い1:手ぶれ補正 その5
今回はレンズ・ボディ協調制御について解説する。
レンズ・ボディ協調制御とは、カメラレンズにレンズ内手振れ補正が、カメラボディにボディ内手振れ補正が内蔵されている場合、それらを協調制御することでより強力な手振れ補正を可能にする方法である。各社で呼び方が異なり、シンクロ手振れ補正(OMデジタルソリューションズ)やシンクロVR(Nikon)、Dual I.S.(Panasonic)などとも呼ばれる。
協調制御はレンズ側とボディ側の双方の補正を連動して機能させる必要があり、最新のレンズとボディでのみ対応する(協調制御が初めて登場したのは2016年)。CanonやNikonではボディが一眼レフからミラーレスに移行し、それに伴ってレンズマウントがEF→RF/F→Zのようにミラーレス専用に変わったが、ミラーレス移行後のボディとレンズ(RFマウントとZマウント)でのみ協調制御に対応している。対応しているボディとレンズの組み合わせは各メーカーから公表されている。
手振れには以前紹介した角度ぶれ、シフトぶれ、回転ぶれの3種類が存在するが、協調制御が働くのは角度ぶれのみであり、シフトぶれと回転ぶれはボディ側で補正される。協調制御に対応していないが、レンズ内手振れ補正機能搭載の旧式のレンズを使用する場合、角度ぶれはレンズ側のみで補正することになる(表1)。
協調制御では、大きなブレ成分の補正時にはレンズ内手振れ補正が機能し、残った細かいブレ成分の補正はボディ内手振れ補正が機能する。これは、レンズ内手振れ補正とボディ内手振れ補正には、それぞれ得意・不得意があるからである。レンズ内手振れ補正はわずかな動作で大きな補正効果を得られる反面、細かく動かすのが苦手である。ボディ内手振れ補正は細かく動かすことは容易だが、大きく動かすことが苦手である。協調制御では両者が互いに苦手な動作を補うことで、より強力な手振れ補正を実現することができる。2024年7月現在では最大「8.5段分」の手振れ補正が実現されている(OM1 mark2、EOS R1)。
レンズ・ボディ内協調制御のメリットとデメリットは以下のとおりである。
【メリット】
・これまで紹介した手振れ補正に比べ、より強力な補正効果を得ることが可能
【デメリット】
・対応するボディ・レンズの組み合わせが限定的である
・ボディ・レンズともに手振れ補正機構が搭載されるため、システム全体が大きくなり、それに関連して高価になる
次回は電子式手振れ補正について解説する。
趣味は天文と写真と車。大学では天文サークルに所属し、暗い空を求めて日本中を飛び回っていた。 天文学を極めるために大学院に進学、在籍中は中間赤外線分光器の開発に従事。 カメラやレンズに関する記事を主に担当。