本シリーズでは、各社におけるカメラの手振れ補正機構について、名称の違から性能の指標について解説をしてきた。いよいよ今回から、手振れ補正機構の各種原理について解説する。
これまでの記事については以下より復習いただきたい。
各社における名称の違い 各社のカメラ用語の違い1:手ぶれ補正 その1
手振れ補正の性能を表す用語 各社のカメラ用語の違い1:手ぶれ補正 その2
手振れ補正の性能を表す用語(その2の続編) 各社のカメラ用語の違い1:手ぶれ補正 その3
おさらいになるが、手振れ補正は図1に示すように、「レンズ内手振れ補正」、「ボディ内手振れ補正」、「レンズ・ボディ協調制御」、「電子式手振れ補正」の4種類がある。今回はこのうち「レンズ内手振れ補正」について解説する。
レンズ内手振れ補正とは、レンズユニット内に搭載したジャイロセンサーで角度ぶれ量を検知し、検知したぶれをキャンセルするよう、ユニット内の一部のレンズを動かすことで手振れを補正する。さらに一部の市販レンズには加速度センサーが搭載されており、シフトぶれ量の検知及び補正が可能なものも存在する(例:Canon EF100mm F2.8L マクロ IS USMなど。余談だが、本レンズは世界で初めて角度ぶれ補正とシフトぶれ補正の2つが搭載されたレンズである)。
角度ぶれを補正する一般的なレンズ内手振れ補正の原理を図2に示した。図のように手振れによってピッチ方向に角度ブレが発生した場合、手振れの無い状態(①)ではカメラレンズに垂直に入射していた緑色の入射光線が、カメラレンズに対して角度をもって入射する(②)こととなり、カメラボディの像面上での結像位置がずれるために像ぶれが発生する。そこで補正光学系を移動させる(③)ことで像ぶれの発生を抑える。これがレンズ内手振れ補正による手振れ補正の原理である。③における補正光学系の移動方向はカメラレンズの光軸に対して垂直な方向であり、補正光学系の移動はコイルと磁石を用いて行われる。
レンズ内手振れ補正のメリットとデメリットは以下のとおりである。
【メリット】
・ピッチ・ヨー方向の2軸角度ぶれ補正が可能(一部のレンズではX・Y方向の2軸シフトぶれ補正も可能)
・撮影画像だけでなくファインダー像に対しても手振れ補正が可能
・デジタルカメラだけでなくフィルムカメラでも手振れ補正が可能
【デメリット】
・レンズ全体のサイズが少し大きく、重くなる
・高価になる
・レンズ設計の自由度が減り、設計が難しくなる
・手振れ補正機能使用時に光学性能が少し低下する(注)
(注)手振れ補正機能が働くと補正光学系レンズがシフトし、レンズ中心が光軸からずれるため、光学性能がピーク性能から少し低下する。最新の光学設計ではこの低下はわずかなレベルまで抑えられている。
趣味は天文と写真と車。大学では天文サークルに所属し、暗い空を求めて日本中を飛び回っていた。 天文学を極めるために大学院に進学、在籍中は中間赤外線分光器の開発に従事。 カメラやレンズに関する記事を主に担当。