コリメーションチェッカーという道具がある。その名の通り、光線の平行度(コリメーション度)を測定することができる治具である。シアリング干渉の原理を使った素子であるので、基本的には準単色光束の平行度を測定するために使用される。
多くのコリメーションチェッカーには、平行度に関するメモリがついているわけではないので、「十分な平行光が実現されているか否か」を判定するためだけに使わることが多く、光束の”平行度”そのものを測定するのにはあまり使用されない(、と筆者は理解している)。使い方としては、水平度を確保するために持ちる水準器に似ている。となると、「そもそもコリメーションチェッカーを用いた調整で、どの程度の平行度が実現できるのか?」ということが気になってくる。そこで今回は、コリメーションを使った場合の調整限界ということを考えてみたい。
図1は一般的なコリメーションチェッカーの主要構成である。内部にはシアリング干渉を発生するためのガラス板が挿入されている。入射した準平行光は、ガラス板の表面と裏面で反射され、分割された2つの波面が2光束干渉を起こす。観察窓には拡散板が置かれており、拡散板面付近に局在している干渉縞が可視化されて観察することができる。シアリング干渉を発生させるガラス板は実はウェッジ板(弱いプリズム)になっており、これが単なるガラス基板をコリメーションチェッカーたらしめている。ウェッジの方向が重要で、2つの光波が表裏の反射によってずれる方向ではなく、それとは直交する方向にずれるようにウェッジが施されている(ここを勘違いしている人が多いようである)。こうしたウェッジ板に理想的な平行光が入射した場合、ウェッジ角によって入射口側から見て\(\theta\)だけ傾いた光束が生成されるために、光軸と平行な方向に干渉縞が拡散板面に現れる(図1)
ここで、このウェッジ板にわずかな曲率半径Rを持った光束が入射した場合を考える。この場合、曲率半径Rの2つの球面波が板厚によって決まる量(\(\Delta y\))だけずれた球面波が重なることになるため、拡散面状には光軸に対して垂直な方向の干渉縞が発生することになる(図2)。ただし、理想平行光束の場合に見られたウェッジ板によって互いの波面が傾いたことによる光軸対して平行な干渉縞の成分も発生するため、結果的には両方の成分を持った干渉縞(=光軸に対してある角度(\(\psi\))を持った干渉縞)がみられることになる。この角度(\(\psi\))は入射光束が平行光からずれるほど(=波面の曲率半径Rが小さいほど)大きくなるため、”干渉縞が光軸に対してできるだけ平行になるように入射光束を調整すればより平行光線に近い光束が得られる”、ということになる。これがコリメーションチェッカーの原理である。
コリメーションチェッカーの定性的な説明はここまでにして、次回はいよいよコリメーションチェッカーの調整限界について考えていこう。
大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。