筆者の趣味であるカメラに関する話。第2回はコーティングについて紹介したい。
カメラレンズにおけるコーティングは、レンズの本来の性能を引き出すための重要な技術である。レンズの表面には表面でのフレネル反射を軽減したり、表面を保護する目的で薄膜などの構造で覆われていることが一般的であり、それらを総称して「コーティング」という。特に表面反射を抑えることは重要であり、もし仮にレンズ表面にコーティングが施されていなかった場合、1つのレンズ面あたり約4~7%の光を損失してしまう。レンズには1枚あたり表裏2つのレンズ面があり、カメラレンズは〜数10枚のレンズから構成されることを考えると、コーティングが施されていない場合は、カメラレンズ全体を透過する光量は半分以下になってしまう。このことからも、コーティングの重要性は理解いただけるだろう。
カメラレンズで使用されるコーティングについて、図1にまとめた。コーティングは防汚コーティングと反射防止コーティングの2種類に大別される。防汚コーティングは汚れが付着するレンズ前面あるいは前面・後面にのみ施され、レンズの表面に付着した汚れを簡単に拭き取ることが可能なフッ素コーティングが広く採用されている。反射防止コーティングは前述の理由からすべてのレンズ面に施される。コーティングの内容は①誘電体膜、②サブ波長以下のサイズの空隙を含んだコーティング、③サブ波長以下のサイズのくさび状構造物を並べたコーティング(いわゆる”モスアイ構造”)の3種類に大別される。特に③については薄い膜で覆う従来のコーティングとは異なり、レンズ面上に立体的な構造が形成されるという毛色の違うものになる(し、社内でもこれを「コーティング」と扱うか一大議論になった)のだが、カメラレンズメーカーでは「コーティング」と呼んでいるために、今回はコーティングの1種として取り扱うことにした。
各社の防汚コーティングと反射防止コーティングの名称について、表1と2にそれぞれまとめる。
防汚コーティングについては、半分以上のメーカーがフッ素を使ったコーティングであることを明示している一方で、多くの会社では詳細を公開していない。
反射防止コーティングについては、「①誘電体多層膜」「②サブ波長サイズの空隙を含んだコーティング」「③サブ波長サイズのくさび状構造物を並べたコーティング」の3種類すべてをラインナップしているのはCanonのみで、多くのメーカーは①~③のうち2種類程度を利用している。TAMRONは詳細が不明であったため、①~③のいずれにも分類していない。なおTAMRONが用いている名称「BBAR」は、光学業界で一般的に使われる名称である。
また、同じ分類であっても性能や細かい方式の違いにより複数のコーティングを用意しているメーカーもある。例えば、Nikonでは誘電体膜としてSICとARNEO Coatの2種類があり、高い透過率を実現する多層膜レンズコーティングであるSICは、現行レンズの全てで採用されているが、超低反射率を実現した多層膜の反射防止コートであるARNEO Coatは高性能レンズにのみ採用する、という使い分けがされていた(なお”アルネオ”という読みのようだが、AR-NEOという”反射防止(AR)の進化版(NEO)”という意味なのだろうか。。。??ニコンのページを参照)。
コーティングの名称は各社で細かく分けられており、「手振れ補正」よりも種類も、複雑である。各コーティングの効果・原理の細かい違いについは別稿にて解決したい。
趣味は天文と写真と車。大学では天文サークルに所属し、暗い空を求めて日本中を飛び回っていた。 天文学を極めるために大学院に進学、在籍中は中間赤外線分光器の開発に従事。 カメラやレンズに関する記事を主に担当。