本シリーズでは、収差のとらえ方を波面収差と呼ばれるものに拡張し、その定式化を目標にす る。今回は、そのうえで必要不可欠な波面の概念について解説する。
まず、光線の復習をしよう。無限に小さい点光源からある角度の範囲に広がって伝搬する光を考える。このとき、任意の方向に無限小の立体角をとり、それを抜粋したものが「光線」である。無限小の立体角なので一本の直線で表すことができる。その意味では、光源から出た光は光線の集まりであり、この意味で「光線束」と呼ばれることもある。なお、簡単のためここでは光の伝搬する媒質は均質媒質を考えている。媒質の均質性は簡単な近似として極めて広く用いられる仮定である。なお、ここでは光源を点光源に限定しているが、面光源は点光源の集合と考えれば良いので一般性を失わない。以下でもこれらの仮定を引き継ぐものとする。
図1:光線の概要
次に、波面の説明に入ろう。波面は光を波として捉えることで登場するものである。上で説明した光線束の各光線上に沿って波が伝搬する様子を重ねてみる(図2の赤線)。ここで、各光線上に重ねた波の同位相の点の集合でできる面を波面と呼ぶ(図2の青線)。点光源であるので、各光線に沿った波は同一のタイミングで出ており(これを、位相が揃っているという)、波面は光源を中心とする球面状の波面(球面波)になる。
図2:波面の概要
最後に、屈折に伴う波面の変化を考える。最もシンプルな例として、真空中の光軸上の光源から出た光が、凸形状のガラス(屈折率:\(n\))の境界で屈折し、理想結像する系を考える。光源を出た各光線は境界面で屈折した後、結像点に至る。ここで、前段落で述べた点光源からの波面が球面波であることと、光の逆進性を考えれば、境界面の前後で「波面は光源を中心とする球面波(図3の青線)から、結像点を中心とする球面波(図3の紫線)に変換される」ことが言える。では、なぜこのような波面の変換が起きるのであろうか?それには次のような解釈を与えることができる。空気(屈折率:1)より、屈折率が高いガラス内では、光の伝搬速度、すなわち位相速度が遅くなる。この事実を光軸中心と周縁の光波に適用すると、光軸付近の光波は周縁部よりも早くガラス内に侵入するため、位相の遅れが早く始まり。そのとき周縁部を伝搬する光波は、位相速度がガラスよりも早い空気中にいるので、光軸付近の光波を追い越して前方にとび出す形となる(図4)。その結果、ガラス内では境界面と同じ向きの凸形状の球面波が生成されることになる。この例では、凸形状の境界面で光が実像を結ぶ例を挙げたが、虚像を結ぶような他の場合においても同様の考え方ができる。このように、波面に生じる位相速度を用いて境界面での光の屈折や結像を考えることが、後に説明する「波面収差」を理解する上でのカギとなる。
図3:媒質の境界面での屈折前後における波面形状の変化
図4:境界面付近での波面の変化に注目したもの
京都大学大学院理学研究科 宇宙物理学教室 博士課程在籍。 研究内容は自由曲面を用いた軸外し光学系の開発。