「窓(ウィンドウ)」は測定器や実験環境をと外界から隔離するために使用される光学素子であり、一般的にはある直径(角の場合もある)と厚みを持った平行平板である。おそらく最もシンプルな光学素子であると考えられるが、適切な窓材の選定には実に様々な検討項目が存在しており、幅広い知識が要求される。本シリーズでは筆者の贖罪(?)も兼ねて、主に赤外線光学装置に用いられる窓材についてまとめる。
前回の記事では、窓の設計において考慮される材料特性について紹介した。今回は「①光学的特性」の観点から赤外線の窓材を検討してみる。
光学的特性の中でも「透過率の波長依存性」は窓の用途から鑑みても最も重要な特性であろう。光が窓材に入射すると、その材料と多様な相互作用を起こす。相互作用のいろいろについては別の記事に譲るが、たとえば石英ガラスのレーザー耐性とOH含有量(1)で紹介したようなものはその一例である。相互作用の結果、入射光は屈折・吸収・散乱などといった作用を受ける。このうち吸収・散乱されなかった光は窓材を透過する(透過率は入射光の強度に対する射出光の強度の比として定義される)。相互作用の程度は波長によって異なるため、透過率も波長に依存する。
赤外線を透過する光学材料は多く存在する。ただし可視光用で産業用に用いられる”光学ガラス”のほとんどは、波長3\(\mu m\)以上の光を透過しない(吸収される)。歴史的には酸化アルミニウム(特に\(\alpha\)-Al2O3、いわゆるサファイア)やイットリア(Y2O3)などの結晶材料が第二次世界大戦時代に注目されるようになった。イットリアに関連した材料では、その後にYAG(Yttrium Aluminum Garnet)が開発され、現在では主にレーザー用途で広く用いられている。このほかにもCaF\(_{2}\)、BaF\(_{2}\)、MgF\(_{2}\)、LiF、CdTe、ZnS、ZnSe、InP。NaCl、Ge、Siなど、優れた光学性能を持つ光学用結晶材料が見出され、人工的にも製造可能になった結果広く利用されている。またこれらの多くは半導体材料としても用いられている。
一方で、“石英”と”石英ガラス”は違うでも紹介した合成石英をはじめ、酸化物ガラスも赤外線を透過する材料として知られている。合成石英は通信用途などのファイバーのコア材として広く用いられており、代表的な酸化物ガラス材である。その他にもテルル(Te)、ゲルマニウム(Ge)、バナジウム(V)を含んだ酸化物ガラスも赤外線透過性を有する材料として知られている。この他にもカルコゲナイドガラス(Chalcogenide Glass)も赤外線を透過するガラスである。カルコゲナイドガラスは硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)などのカルコゲン元素を主成分とし、遠赤外(~10\(\mu m\))において優れた透過性を持つ。ただしこれら「ガラス」は一般的に「結晶」に比べて”脆い”という欠点があり、数%程度の歪みによって破損する可能性がある。
赤外線で使用される光学材料の透過率特性は様々な場所で紹介されている(例:以下のページなど)。透過率特性を見ると、重たい元素(ゲルマニウムやセレンなど)を含む光学材料の方が、軽い元素(酸素、ケイ素、フッ素など)よりも長波長まで透過することが見てとれる。「光が透過する」ということは、その物質内でエネルギー損失がないことを意味する。結晶の場合、長波長側の吸収は主にその結晶を構成する原子の振動(格子振動)によって生じるが、構成している原子の質量が大きいほど、光と相互作用する分極が速い振動についていけなくなるので、固有振動数が低周波数(長波長)側に移動する。その結果として(固有振動数である)吸収端がより長波長側になる、すなわちより長い波長の光まで透過する傾向がある。ただ、固有振動数(いわゆる分極)は材料を構成している原子のみならず、原子(分子)間の結合の強さによっても変化する。そのため結合に寄与している電子の数や電気陰性度なども透過特性を決める上では重要なパラメータである。
次回は窓材を考える場合の屈折率について議論を深める。
大学院在学時に携わった分光観測、低温実験とデータ解析をきっかけに、 実験・データ解析のサポートビジネスを創案。エストリスタを立ち上げ業務に従事する傍ら、 購買から経理までバックオフィス関連業務を一手に担う。 光学に関する素朴な疑問や分光・天文学に関する記事を主に担当。