Aπραξία

結像光学系

波動光学的に考える焦点深度 その1

2024.12.12

波動光学的に考える焦点深度 その1

本ブログではすでに様々な光学性能の指標を取り扱ってきたが、その一つに「焦点深度」というものがある。今回はその焦点深度を波動光学的に考えてみたい。

「焦点深度」は光学系の像面において許容できる最大ピントずれ量\(\Delta Z_{geo}\)のことで、以下の式で表現される(縦倍率と焦点深度と被写界深度も参照)。 $$ Z_{geo} = \gamma F \Delta x $$ ここで、\(\Delta x\)は検出器のピクセルサイズ、\(F\)は結像側の有効F値である。また、\(\gamma\)は評価者が設定する補正係数であり、通常は\(\gamma=1\)が用いられる。この式は、幾何光学的な考察によって得られるもので、「無収差光学系によって得られる点像を理想焦点面からデフォーカスした状態で撮影したとき、F値で決まるマージナル光線の広がりが検出器のピクセルサイズと同等になる」という条件から導くことができる(図1)。この式より、光学系が明るければ明るいほど(F値が小さいほど)、焦点深度が短くなることが分かる。広角レンズのような明るい光学系においてピント合わせがより困難であることは、写真撮影を趣味とされている方であればしばしば経験していることだろう。

 


図1:幾何光学的な焦点深度の定義

 

この定義はかなり納得感がある。それゆえ、広く光学系の評価に用いられている。ところが、昨今普及しているCMOSカメラのようにピクセルサイズがエアリーディスク(Airy disk)サイズに近づくような光学系においては、この指標を用いてもよいのか?という疑問が生じる。点像がピクセルサイズに対して優位な広がりを持つようになると、ピンボケ像の広がりがデフォーカス量と比例しなくなる領域が目立つようになるからである(図2)。これは大きな収差を持つ光学系に対しても同じことが言える。この問題は結局のところ、幾何光学という近似を用いているために生じるわけなので、波動光学的な観点から焦点深度はどうなるのかを考察してみるというのが今回の動機である。

 


図2:デフォーカス量と像の広がりが比例しない例


 

波動光学的な焦点深度を考える上では、「波面収差」という概念が必要になる。幾何光学における収差(これを「幾何収差」と呼ぶ)とは、近軸光学理論によって得られる結像点(=理想結像点)と実際の光線の結像点の「ずれ量」のことである。それに対して、波面収差はこのずれ量を波動光学における基本量である「光路差」に置き換えたものである。図3は、光学系に焦点ずれが発生した場合の波面収差の説明図である。ここではいったん無収差光学系を考え、光軸上の結像点を点\(I\)とする。無収差光学系においては、点\(I\)に集光する射出瞳上での波面は半径\(f\)の球面になる。ここで\(f\)は射出瞳から理想像面までの距離である。また光軸から半径\(h\)の距離にある点を点\(R\)とする。次に、評価点(検出器)が\(\Delta z\)だけずれた位置(\(=I^{‘}\))にある場合を考える。もし、\(I^{‘}\)に理想結像する波面があるとすれば、その波面の射出瞳上での半径は\(f^{‘}\)(\(=f+\Delta z\))となる。ここで、点\(I\)と点\(R\)を結ぶ直線を描き、それが\(I^{‘}\)に理想結像する波面と交わる点を点\(R^{‘}\)とする。点\(I^{‘}\)に検出器がある場合は、実際の波面は点\(I\)に理想的に集光するため、理想結像に対して線分「\(RR^{‘}\)だけ光路差(誤差)を持った状態」ということになる。そしてこの線分\(RR^{‘}\)を「波面収差(\(\Delta Z_{wfe}\))」と呼ぶ。

 


図3:デフォーカスの場合の波面収差


 

次回はこの波面収差を用いて、波動光学的な焦点深度を議論する。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

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