「恒星以外のものを使った望遠鏡の焦点合わせ」は本当に正しいか?

2023.10.4

「恒星以外のものを使った望遠鏡の焦点合わせ」は本当に正しいか?

「光学望遠鏡の焦点調整を、遠くにあるテレビ塔の明かりや惑星で実施しても問題ないものですか?」といった質問を受けることがある。まだ薄暗く明るい天体しか導入できないような時間帯に恒星以外の光源を用いて焦点調整を行うことはよくあることであるが、これは本当に正しく焦点調整ができているのだろうか?

望遠鏡の焦点調整は、本来は観測したい対象である”恒星”を用いて実施するべきであるが、日中や薄明等で明るい天体しか導入できないような時間帯に恒星以外の光源を用いて焦点調整を行う方も多いのではないだろうか。もしかすると、極軸調整が不十分な架台に搭載された望遠鏡において、恒星が時々刻々と動いている状態で焦点調整を実施したくないために、遠方の鉄塔などを用いて調整を行っている、といった理由もあるかもしれない。

 

恒星は十分遠く(光学的な用語でいえば”無限遠”)に存在するが、焦点調整に用いる物体が有限の距離にある場合、恒星と物体においては理想的な焦点位置は異なる。望遠鏡の主平面から物体までの距離(物体距離)をa、像までの距離をb(像距離)とすると、それらは、焦点距離fを用いて以下の式(レンズの公式)で結ばれる。

$$\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}$$

例えば恒星においては\(a=\infty\)なので\(b_{恒星}=f\)となるが、aが有限の場合は\(b_{物体}=\frac{1}{\frac{1}{f}-\frac{1}{a}}\)となるので、その差である

$$ \Delta b =  b_{恒星} – b_{物体}  = \frac{f^{2}}{(a-f)}$$

がピントずれの量になる。aが有限値を持つ限りにおいては、\(\Delta b\)はゼロにはならないので、有限距離の物体で焦点合わせを行うと、原理的には恒星像に対してはピントずれ(ピンボケ)が発生してしまう、ということになる。これが冒頭の質問をされた方々が言いたかったことであろう。

 

この結論は厳密に正しい。ただ、実用的なことを考えると、このピントずれ量が許容範囲であれば問題は生じない。具体的にはピントずれ量が焦点深度内に入れば問題ないということになる。下の表に、いくつか望遠鏡において異なる物体を用いた場合のピントずれ量\(\Delta b\)[mm]と焦点深度の計算結果を示した。ここでの焦点深度には、幾何光学的焦点深度(=\(\Delta x \) x F:(\(\Delta x\)は検出器の画素サイズ[mm])を用いている。ピントずれ量\(\Delta b\)が焦点深度よりも大きくなった場合(優位にピンボケが発生する場合)を赤字で示している。

 

表1:有限距離にある物体を用いた場合の恒星像に対するピントずれ量と焦点深度

 

この表を見ると、口径(D)30cm(F/3)の望遠鏡を用いた場合は、1km先のテレビ塔で焦点調整を行うのは不十分であることが分かる。その一方で、90km上空のレーザーガイド星や月、木星を用いて焦点合わせを行っても全く問題がないことが分かる。一方で、すばる望遠鏡やそれより口径30m(F/15)のTMTを用いた場合は、我々からすれば十分遠いと考えられる月であっても、焦点合わせの対象としては不十分であることが分かる。一般には、焦点距離が大きな望遠鏡(したがって、一般には口径が大きな望遠鏡)ほど、より遠くの対象をピント合わせの対象として用いる必要が生じる。なお、焦点深度は、検出器のピクセルサイズやどの定義に基く焦点深度を用いるかで値が異なるので、その点は注意されたい。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

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