
光学機器に利用されるレンズや窓材に用いられる各種光学材料が用いられるが、これらの材料は、原子配列に長距離の規則性がない非晶質(モルファスとも呼ばれる、ガラスなど)と、原子や分子が規則正しく周期的に配列した結晶に大別される。結晶における原子の配置構造を結晶構造と呼び、結晶構造の違いにより物性や光学特性に差が現れる。
前回の記事屈折率楕円体を導入し、「光学軸」とは「複屈折が起こらない方向の軸」であることを説明した。今回は、複屈折によって光線が分かれる現象を詳しく見ていこう。
読者の方の中にはご存知の方も多いかもしれないが、方解石(カルサイト)を通して特定の方向から文字を見ると、図1のように文字が二重に見える。これは、あらゆる偏光方向の混ざった自然光が方解石に入射した際、屈折率の影響で光の進行方向に垂直な面内の2つの直交する偏光成分に分解され、それぞれが結晶中を異なる速度で進んでいく。その結果として2本の光線に分離して見える。この2つの光線を、方解石のような一軸性結晶では「常光線」と「異常光線」と呼ぶ。

図1:方解石を通して文字をみた様子
ちなみに方解石のおもな産出地はメキシコ、ブラジルなど南米に多いのだが、英語では特に透明度の高い方解石を「Iceland spar」という。産出地からはおおよそ想像できない名前がついているのだが、もともと方解石はアイスランドで発見されたという歴史があり、icelandのspar=へき開性の高い石、という名前がついたようだ。
常光線(ordinary ray、o光線)は、偏光方向が光学軸(c軸)に垂直な面を進む光線である。そのため屈折率は常に\(n_o\)であり、光の進行方向によらず一定である。前回の屈折率楕円体で考えると、c軸に垂直な偏光は、楕円体のxy平面内の方向に対応する。一軸性結晶の楕円体はc軸周りの回転楕円体なので、xy平面内ではどの方向も半径が\(n_o\)で等しい。そのため進行方向によらず屈折率が一定なのである。また、常光線はガラスなどの等方性物質と同じように、スネルの法則に従って屈折する。境界面に垂直に入射すれば直進し、斜めに入射すればスネルの法則通りに曲がる。このような「普通」の振る舞いをするので「常」光線と呼ばれる。
かたや異常光線(extraordinary ray、e光線)は、偏光方向が光学軸(c軸)を含む面内を進む光線であり、屈折率が光の進行方向によって変化する。屈折率は\(n_o\)から\(n_e\)の間の値を取り、進行方向が光学軸に垂直なときは\(n_e\)、光学軸に平行なときは\(n_o\)となる。これも屈折率楕円体で理解できる。異常光線の偏光方向は、光の進行方向とc軸を含む面内にある。光の進行方向に垂直な面で楕円体を切ったとき、この面内での楕円の半径が異常光線の屈折率に対応する。進行方向によって切り口の形が変わるため、屈折率も変化するのである。また、異常光線はスネルの法則に従わない。境界面に垂直に入射しても、曲がることがある。等方性物質では見られない「異常」な振る舞いをするので「異常」光線と呼ばれる。

図2: 一軸性結晶における光の振る舞い。常光線(左)はスネルの法則に従い屈折するが、異常光線(中)は光線の方向と波面法線の方向が一致しない。右図は屈折率楕円体で、常光線の屈折率\(n_o\)は一定(青)、異常光線の屈折率\(n_e\)は方向により変化する(緑)。
次回は、常光線と異常光線の屈折率を式で整理する。
大学院在学時に携わった分光観測、低温実験とデータ解析をきっかけに、 実験・データ解析のサポートビジネスを創案。エストリスタを立ち上げ業務に従事する傍ら、 購買から経理までバックオフィス関連業務を一手に担う。 光学に関する素朴な疑問や分光・天文学に関する記事を主に担当。
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