Aπραξία

光学測定器

完全平面なのに発生する収差(2)

2026.9.10

完全平面なのに発生する収差(2)

以前の記事で「誘電体多層膜による反射ミラーは反射によって生じる位相シフト量が入射角度によって異なるので注意が必要」であることを述べた。実はこの効果は、厳密にはアルミや金、銀といった広く使用されている金属反射ミラーに対しても生じる。その程度は大抵の場合は非常に小さく、無視できるものであるが、例えば干渉計ように位相差が本質的に重要な意味をもつアプリケーションおいては考慮しておかなければならない現象である。意外にもやっかいなのは、拡散光や集光光中に導入されたミラーは、たとえそれが"平面ミラー"であっても、ミラーの平面度によって発生する収差とは別の波面収差を発生させるということである。前回 に引き続き、反射ミラー材としてしばしば用いられるアルミニウム、銀、金膜が作る波面収差量を計算してみる。

前回の記事の図1で、アルミニウム、銀、金における反射時の位相シフト量の入射角依存性の計算結果を提示したが、S偏光とP偏光で入射角\(\theta \to 90\)度での位相差の極限が180度ずれていたことに気づいた読者の方も多いだろう。これは、Maxwell方程式と媒質の界面での電場と磁場の満たすべき境界条件を用いて導出される”Fresnelの振幅反射係数”

$$r_s = \frac{n_1 \cos\theta_1 – n_2 \cos\theta_2}{n_1 \cos\theta_1 + n_2 \cos\theta_2}$$

$$r_p = \frac{n_2 \cos\theta_1 – n_1 \cos\theta_2}{n_2 \cos\theta_1 + n_1 \cos\theta_2}$$

から得られる(\(\theta \to 90\)度とすると、\(r_s \to -1\)、\(r_p \to +1\)となる)が、それだと物理的な描像が置き去りにされていると思うので、さらに定性的に考えてみたい。

 

S偏光において\(\theta \to 90\)度の状態では電場の振動方向は界面に対してほぼ平行という状態である(図1)。ここで金属(導体)においては「電場は面に対して垂直になる」という性質を思いだしてもらいたい。導体においては内部の自由電子の偏りによって、面に沿った方向の電場はすべて打ち消されてしまうので、面に垂直の電場しか存在できないという性質である。この性質のため、S偏光の\(\theta \to 90\)度での偏波は本来なら存在できないことになる。それを存在させるためには、どうすればよいか?反射光が位相差180度をもてばよいということである。入射光と反射光は界面上では完全に同じ空間に同居しているため、入射光に対して丁度180度の位相ずれを持った反射光が存在すれば、界面上では互いに打ち消し合い、見かけ上「界面上で水平成分の電場を持たない」という条件を満たすことができるのである。その一瞬においては、界面上の電子が入射光の電場を打ち消すように偏っている、と考えてもよいだろう。その偏った電子の振動が反射光を発生させるのである。

 

一方、\(\theta \to 90\)度で入射するP偏光の振動は、ほぼ界面に対して垂直になっている。この場合、すでに導体界面での電場の条件を満たしている。\(\theta \to 90\)度の状態は反射を生じずに界面すれすれを伝搬しているとも解釈できるので、位相差は発生しない(\(\Delta\phi = 0\)度)となると理解できる。

 

図1:P偏光・S偏光と界面の模式図


 

次回は、実際に平面ミラーに発生する波面収差の計算結果を示すことにしよう。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

この監修者の記事一覧
  • お電話でのお問い合わせ

    075-748-1491

    お急ぎの方はお電話にてご連絡ください。
    受付時間:平日10:00〜18:00

  • メールでのお問い合わせ

    MAIL FORM

    フォームよりお問い合わせください。

TOP