Aπραξία

光学測定器

完全平面なのに発生する収差(1)

2026.8.6

完全平面なのに発生する収差(1)

以前の記事で「誘電体多層膜による反射ミラーは反射によって生じる位相シフト量が入射角度によって異なるので注意が必要」であることを述べた。実はこの効果は、厳密にはアルミや金、銀といった広く使用されている金属反射ミラーに対しても生じる。その程度は大抵の場合は非常に小さく、無視できるものであるが、例えば干渉計ように位相差が本質的に重要な意味をもつアプリケーションおいては考慮しておかなければならない現象である。

ここでやっかいなのは、拡散光や集光光中に導入されたミラーは、たとえそれが”平面ミラー”であっても、ミラーの平面度によって発生する収差とは別の波面収差を生じるということである。この収差はコモンパス系(注釈:ここでのコモンパス系とは光学系の検査に用いる光線光路が測定系の光路と全く同じである光学系のことを指す)においては、面形状誤差と区別せずに取り扱う(システムエラーとして補正する)ことが可能であるが、ノンコモンパス系や、多色波長を用いるアプリケーションの場合はその仮定は破綻する。平面ミラーは、光学系をコンパクトに折りたたむのに都合がよいため多用されがちであるが、使用する箇所や角度には細心の注意を払ってしかるべきということである。本記事では、一般的に反射ミラー材として用いられるアルミニウム、銀、金膜の反射による位相ずれ量を定量的に確認した上で、実際に発生する波面収差量についての評価を試みる。

 

図1はアルミニウム、銀、金における反射時の位相シフト量を入射角に対してプロットしたものである。波長は650nmで、アルミニウム、銀、金膜の複素屈折率はそれぞれ、\(1.558031+7.712413i\)、\(0.049517+4.411448i\)、\(0.111140+3.504077i\)を仮定している。すべての金属において言えるのは、入射角度が大きくなるにつれてS偏光の位相差は180度に近づき(収束し)、P偏光の位相差は0度に近づく(収束する)。入射角\(\theta=0\)度での位相差は膜種に依らず\(\Delta\phi=150〜170\)度の範囲にあり、S偏光の入射角度に対する位相差の変化は比較的小さい。その一方で、P偏光の位相差は入射角度が小さい(垂直入射に近い)領域ではなだらかに変化するが、\(\theta=50〜60\)度を超えたあたりで急激に位相差が変化する(\(\theta=0\)に近づいていく)傾向がみられる。

 

材料の違いに目を向けると、入射角\(\theta=0\)度ではアルミニウムの位相差が最も180度に近く、銀、金の順で180度から離れる傾向にある。完全導体における位相差は180度となることから、アルミニウムのこの傾向は複素屈折率の虚部(\(k\))の値が他の金属に比べて非常に大きいことがその理由だと考えられる。入射角度が徐々に大きくなってもアルミニウムの位相差はS偏光、P偏光共にあまり変化はなく、入射角依存性は銀や金に比べて小さい。しかしながら、入射角度が90度(水平入射)に近づくとP偏光での位相差が0度に収束する関係で、その変化率はアルミニウムが最も大きくなる。一般的に使用される金属膜の中では、非常に大きな入射角で用いない限りはアルミニウムが最も素性がよい反射膜材であると言える。

 

図1:アルミニウム(青)、銀(オレンジ)、金(緑)における反射時の位相シフト量の入射角依存性。実線と破線はそれぞれS偏光とP偏光を表す。


 

注意深い読者の方なら図をみて「?」と思われる方もおられるかもしれない。S偏光とP偏光で入射角\(\theta \to 90\)度での位相差の極限が180度ずれているのである。この記事の主題からは逸れてしまうが、執筆しながらどうも気になってしまったため、次回はこの理由について定性的に考えてみることにする。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

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