
光学機器に利用されるレンズや窓材に用いられる各種光学材料が用いられるが、これらの材料は、原子配列に長距離の規則性がない非晶質(モルファスとも呼ばれる、ガラスなど)と、原子や分子が規則正しく周期的に配列した結晶に大別される。結晶における原子の配置構造を結晶構造と呼び、結晶構造の違いにより物性や光学特性に差が現れる。
前回の記事では誘電率テンソルを導入し、結晶系ごとに主誘電率の関係が異なることを説明した。今回は複屈折をより直感的に理解するための道具である「屈折率楕円体」を紹介しよう。
前回の記事では、主誘電率\(\varepsilon_x\)、\(\varepsilon_y\)、\(\varepsilon_z\)から屈折率\(n_x = \sqrt{\varepsilon_x}\)、\(n_y = \sqrt{\varepsilon_y}\)、\(n_z = \sqrt{\varepsilon_z}\)が得られることを見た。この3つの屈折率を使って、以下のような楕円体を定義する。
$$\frac{x^2}{n_x^2} + \frac{y^2}{n_y^2} + \frac{z^2}{n_z^2} = 1$$
これを屈折率楕円体(または光学指標体、optical indicatrix)と呼ぶ。屈折率楕円体は結晶中を進む光の偏光方向と屈折率の関係を視覚的に表現したものであり、楕円体の各軸方向の半径がその方向に偏光した光の屈折率に対応する(図1)。たとえば、六方晶などの一軸性結晶では\(n_x = n_y = n_o\)、\(n_z = n_e\)なので、屈折率楕円体は
$$\frac{x^2}{n_o^2} + \frac{y^2}{n_o^2} + \frac{z^2}{n_e^2} = 1$$
となる。これはz軸(c軸)周りに回転対称な回転楕円体である。一方、\(n_e > n_o\)の場合、z軸方向に伸びた楕円体になる(正の一軸性結晶)。逆に\(n_e < n_o\)の場合、z軸方向に潰れた楕円体になる(負の一軸性結晶)。
図1:屈折率楕円体による異方性媒質の屈折率の表現。例えば一軸性結晶では、光学軸方向の屈折率\(n_e\)とそれに垂直な方向の屈折率\(n_o\)によって楕円体が形成される(b)。正の一軸性結晶\(n_e > n_o\)では光学軸方向に長い楕円体となり(c)、負の一軸性結晶\(n_e < n_o\)では光学軸方向に短い楕円体となる(d)。
屈折率楕円体を使えば、光学軸を簡単に定義することができる。光がある方向に進むとき、その方向に垂直な面で楕円体を切ると切り口は楕円になる。光の偏光方向は進行方向と垂直な面内に限られるため、この楕円の長軸・短軸の方向が、その光が取りうる2つの偏光方向に対応する。そして長軸と短軸の長さが、それぞれの偏光方向に対する屈折率を表す。ところが、一軸性結晶でz軸(c軸)方向に進む光を考えると、切り口はxy平面になる。xy平面で楕円体を切ると、その切り口は楕円ではなく半径が\(n_o\)の円になる。円はどの方位においても長さに偏りがないため、どの偏光方向でも屈折率は同じ\(n_o\)である。このように、複屈折が起こらない特別な方向のことを「光学軸」と呼ぶ。一軸性結晶では光学軸はc軸方向の1本だけである。
最後に、さまざまな結晶系での光学軸について、屈折率楕円体を手がかりに見てみよう。等方性(立方晶)の場合、屈折率楕円体は球になる。どの方向で切っても切り口は円なので、全方向で複屈折が起こらない。光学軸という概念自体が意味をなさない(あるいは、全方向が光学軸とも言える)。一軸性(正方晶・六方晶・三方晶)の場合はさきほども扱ったが、屈折率楕円体はc軸周りの回転楕円体である。c軸方向に垂直な面で切ると円になるため、c軸方向が光学軸となる。二軸性(斜方晶・単斜晶・三斜晶)の場合、屈折率楕円体は3つのすべての軸において、長さが異なる一般的な楕円体となる。このとき、切り口が円になる方向は2つ存在し、したがって光学軸は2本あることがわかる。しかしながら、その方向が結晶軸とは一致しない。光学軸の方向は\(n_x\), \(n_y\), \(n_z\)の具体的な値によって決まり、計算で求める必要がある。
大学院在学時に携わった分光観測、低温実験とデータ解析をきっかけに、 実験・データ解析のサポートビジネスを創案。エストリスタを立ち上げ業務に従事する傍ら、 購買から経理までバックオフィス関連業務を一手に担う。 光学に関する素朴な疑問や分光・天文学に関する記事を主に担当。
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