
積分球は現代光学においてもはやなくてはならない光学機器となっている。積分球のもつ高いスクランブル特性やそこから射出される空間的および時間的一様度の高い光を用いて、光源特性の明るさや色の測定、特に散乱特性を持つ分光透過率・反射率の測定、光学機器の較正、偏光解消器など幅広い分野に利用されている。本シリーズでは積分球に関連する光学理論を整理し、設計や測定に役立つ定量的な知見を提供する。
積分球は設けられたポートにサンプル面を当て、射出ポートで得られた光量\(I_s\)と、同ポートに比較用の散乱面(通常は積分球面と同じ材質の散乱面)を当てた時に射出ポートで得られた光量\(I_r\)の比率(=\(I_s/I_r\))から全球反射を得る、という非常に単純な原理に基づくものである。しかしこの原理に基づく全球反射率測定の結果には実は大きな誤差が含まれており、正しい全球反射率を得るためには得られた結果を補正しなければならないことは広く理解されているとは言い難い。
前回の記事ではサンプルが理想的な拡散反射(ランバート散乱)を生じる場合を扱った。もし、サンプルがミラーのような正反射の場合も同じ結果になるだろうか?残念ながら答えはノーである。例えば、サンプルミラーが入射ポートに対して正対して置かれる場合を考えてみるとよい。その時は、正反射の結果ほぼ全ての光が入射ポートから外に出てしまうので、サンプルの反射率\(R_s\)に関わらず測定値\(I_s/I_r\)は〜0になってしまう。さすがにこれは極端な例であるが、ここで言いたいのはともかく正反射の場合は上記とは異なるモデルを考える必要がある、ということである。
これまで通り積分球に\(I_0\)の光が入射したとし、すべての光は反射率\(R_s\)のサンプルで正反射するとする(前回の記事の定義に従えば\(E_1=I_0\))。このとき、「サンプルは入射ポートに対して若干傾きをもっており正反射された光は漏れなく積分球の内殻に到達する」という条件を課すると、内殻に到達する光量は
$$E_2 = R_s E_1 = R_s I_0$$
となる。2回目に内壁に到達した光は、正反射によって内壁の狭い領域で反射するためポートから外部に漏れることはない。よって、3回目に内壁に到達した光量は、\(E_2\)に対して積分球の内壁の反射率を乗じた
$$E_3 = R E_2 = R R_s I_0$$
となるはずである。続いて3回目の反射は、ランバート反射のみなので、4回目に内壁に到達する光は\(E_3\)に対して球殻全体の平均反射率\(\langle R \rangle\)と入射/射出ポートで失われる量を考慮した補正係数\((1-f)\)をかけたものになる。サンプル面では正反射を生じるがサンプルに入射する光が十分に拡散されたランバート分布とみなすことができると考えると、反射後のその分布はランバート散乱とほぼ等しいと考えることができるため、
$$E_4 = \langle R \rangle (1-f) E_3$$
となる。\(E_1\)と\(E_2\)は積分球の射出ポートからは光は出てこないので、球殻面に定在するエネルギーのうち射出光に寄与するエネルギー\(E_s^{tot}\)は、初項\(E_3 = R R_s I_0\)、公比\(\langle R \rangle (1-f)\)の無限等比数列の和になり、計算すると
$$E_s^{tot} = \frac{R R_s I_0}{1 – (1-f-x)R – xR_s}$$
が得られる。サンプルを入れないときの壁面に定在するエネルギーはランバート分布と同じなので、同様の議論によって正反射の場合の誤差\(\Delta_s\)を求めると、
$$\Delta_s = \frac{1}{R} \cdot \frac{1 – (1-f-x)R}{1 – (1-f)R + \frac{I_s}{I_r} xR} – 1$$
が得られる。

図1:正反射サンプルの場合の相対誤差量\(\Delta_s\)の計算結果。横軸は積分球の出力の比\(I_s/I_r\)、縦軸は\(x\)(サンプル/リファレンス面と積分球内壁の面積比)であり、\(f=0.01, 0.03, 0.1\)、\(R=0.95, 0.98, 0.99\)の場合(3×3=9条件)において計算している。
図1は、サンプルが拡散反射面の場合と同様に、\(\Delta_s\)に対する分布を示したものである。全体の傾向はサンプルがランバート散乱の時と同様であるが、全ての領域において\(\Delta_s > \Delta\)となっており、つまり正反射サンプルの方がより誤差が大きくなるという結果になる。

図2:反射特性による誤差の違い(\(\Delta_s – \Delta\))。正反射サンプルの誤差\(\Delta_s\)から拡散反射サンプルの誤差\(\Delta\)を引いた値を示す。全領域で正の値となっており、正反射サンプルの方が常に誤差が大きいことを表している。
図2は、\(\Delta_s – \Delta\)をプロットしたものであるが、最大で0.1程度、正反射成分の方が誤差が大きい。その誤差は、積分球内壁の反射率\(R\)が大きいほど、ポートの面積比が大きいほど小さくなる傾向を示す。
なお、現実のサンプルでは正反射とランバート反射の中間の反射分布を示すことが多い。しかしながら、これらの散乱特性(BRDF)を正しく把握していくのは一般的には困難である。したがって、積分球で得られた測定値を補正してより正しいと考えられる全方位反射率を求める場合においては、散乱特性が理想的なものから外れていることによる避けられない誤差が存在する。上図の結果は補正後においても残存し得る最大誤差と考えてもよい。
大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。
この監修者の記事一覧