
光学機器に利用されるレンズや窓材に用いられる各種光学材料が用いられるが、これらの材料は、原子配列に長距離の規則性がない非晶質(モルファスとも呼ばれる、ガラスなど)と、原子や分子が規則正しく周期的に配列した結晶に大別される。結晶における原子の配置構造を結晶構造と呼び、結晶構造の違いにより物性や光学特性に差が現れる。
前回は結晶構造の基礎として、結晶軸、単位格子や結晶系について解説した。結晶の対称性が光学特性に影響するのは、端的に言うと結晶構造によっては結晶軸ごとに分極した際の電荷の動きやすさに差が発生する、すなわち屈折率に差が現れるため、ということであった。今回はこの現象を数式で表すための準備として、屈折率と誘電率の関係を見ることから始めよう。
光は電場と磁場が振動しながら進む電磁波である。ある結晶に光が入射すると、光の電場が結晶を構成する各原子の電子と相互作用し、結果的に電荷の偏り(=極)が発生する。これを分極という。入射した光の振動に応じて電荷の偏りも振動するため、各原子も電磁波を放出し、隣の原子にその光があたって分極し、、、というようにして光が伝播していく。結晶中ではこれら入射光と結晶中で放出された光が重なり合い、その結果、光の位相が遅れる。位相が遅れるということは、見かけ上光の速度が遅くなったように見える。結晶などの媒質中での光速と真空中の光速との速度比が屈折率nであり、以下の式で表される。
$$ n = \frac{c}{v} $$
分極しやすい物質ほど電子が強く揺さぶられ、位相の遅れが大きくなり、屈折率が大きくなる。この「分極のしやすさ」を表す量が誘電率(\(\varepsilon\))であり、誘電率と真空中の誘電率(\(\varepsilon_0\))の比が比誘電率\(\varepsilon_r = \frac{\varepsilon}{\varepsilon_0}\)である。比誘電率は、非磁性体では屈折率と以下の関係がある。
$$n = \sqrt{\varepsilon_r}$$
立方晶のような等方性物質では、比誘電率\(\varepsilon_r\)は方向によらず一定であるが、六方晶のような異方性物質ではc軸方向とそれに垂直な方向で電子の動きやすさが異なり、c軸方向に電場をかけたときの比誘電率と、c軸に垂直な方向に電場をかけたときの比誘電率が異なる、ということである。なお六方晶の1つであるサファイアの場合、比誘電率はc軸方向で約11.5、垂直方向で約9.4である。紹介した式を使用すると、屈折率はそれぞれ約1.76、約1.75となり屈折率がわずかに異なる。
この異方性を数学的に扱うために、電束密度\(\mathbf{D}\)を導入しよう。電場\(\mathbf{E}\)が物質中の電子を分極させ、その分極も含めて電場の効果を表現したものが電束密度と考えてよい。電場と電束密度の関係は、誘電率\(\varepsilon\)を使って次のように書ける。
$$ \mathbf{D} = \varepsilon \mathbf{E} $$
等方性物質では分極に方向依存性がないため、電束密度\(\mathbf{D}\)と電場\(\\athbf{E}\)は常に同じ方向を向き、\(\varepsilon\)は単なる数値(スカラー)と扱うことができる。しかし異方性物質では、方向によって誘電率が異なり、たとえばc軸に対して斜めに電場をかけると、c軸方向とその垂直方向とで異なる誘電率が適用されるため、電束密度\(\mathbf{D}\)と電場\(\mathbf{E}\)の方向がずれる。このような「ベクトルを別の方向のベクトルに変換する」関係を表すには、誘電率を単なるスカラーではなく、行列(テンソル)として扱う必要がある。次回は、この誘電率テンソルについて解説する。
大学院在学時に携わった分光観測、低温実験とデータ解析をきっかけに、 実験・データ解析のサポートビジネスを創案。エストリスタを立ち上げ業務に従事する傍ら、 購買から経理までバックオフィス関連業務を一手に担う。 光学に関する素朴な疑問や分光・天文学に関する記事を主に担当。
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