
「窓(ウィンドウ)」は測定器や実験環境をと外界から隔離するために使用される光学素子であり、一般的にはある直径(角の場合もある)と厚みを持った平行平板である。おそらく最もシンプルな光学素子であると考えられるが、適切な窓材の選定には実に様々な検討項目が存在しており、幅広い知識が要求される。本シリーズでは筆者の贖罪(?)も兼ねて、主に赤外線光学装置に用いられる窓材についてまとめる。
これまでの記事はこちらから:
赤外線の窓材は何が適切か?(1)
赤外線の窓材は何が適切か?(2)
赤外線の窓材は何が適切か?(3)
赤外線の窓材は何が適切か?(4)
赤外線の窓材は何が適切か?(5)
赤外線の窓材は何が適切か?(6)
今回は前回に引き続き「③熱的特性」を取り扱う。前回は熱変形の評価に必要となる線膨張係数について紹介した。線膨張係数は温度変化に対する寸法変化を示す指標であったが、与えられた熱量に対する温度変化のしやすさも物質によって異なる。この「温度変化のしやすさ」の指標が比熱(Heat capacity、\(C_p\))であり、一定圧力下で1gの物質を1度変化させるのに必要なエネルギー量([J/g・K])がその定義である。比熱が大きいということは、温度変化をするのに多くのエネルギーを要することを意味する。すなわち比熱が大きいほど物質は温まりにくく、小さいほど温まりやすい。
仮にいま検討している窓材が低温冷却する機器の内外を隔てる用途だとした場合、窓材の内側は冷えるものの、外側は大気環境下にてあたたかい状態が続く。もし比熱が小さい場合、窓の内側と外側で温度変化(温度順応)が簡単に起こってしまうため、内外で温度差がつき、いかに線膨張係数を考慮していたとしても、せっかく窓として活用しようとしても曇ってしまう恐れがある。そこで重要なのが物質内の熱の伝わりやすさを表す指標である、熱伝導率(Thermal conductivity、[W/m・K])と熱拡散率(thermal diffusivity、[m2/s])である。単位面積\(A\)・長さ\(L\)の物体の両端に温度差\(\Delta T\)があるとき(図1)、物体内を単位時間内に流れるエネルギー\(F\)は、
$$ F = \lambda \frac{A \Delta T}{L}$$
で表される。ここで比例定数\(\lambda\)は物質によって異なる値を持ち、熱伝導率と呼ばれる。熱伝導率が大きいほど、熱が速くに伝わり、温度勾配が生じにくい。

図1:温度差ができた物質の模式図
熱伝導率\(\lambda\)が大きいほど熱は速く伝わるものの、比熱\(C_p\)と密度\(\rho\)が大きいほど温度上昇しにくくなる。そのため単位体積あたりの温度変化の速さは熱伝導率に比例し、比熱と密度に反比例するだろう。この、単位体積あたりの温度変化のスピードを示す指標が熱拡散率\(\kappa\)であり、以下の式で表される。
$$ \kappa = \frac{\lambda}{C_p \rho}$$
窓材内の温度変化は、物質の比熱と熱拡散率によっておおむね決まる。比熱が大きい材料は、同じ熱量を受けても温度変化が緩やかであり、熱拡散率が大きい材料は、内部で生じた温度差が速やかに拡散する。また、熱伝導率が高い材料は局所的な温度上昇を均一化しやすく、線膨張係数が小さい材料は温度変化による寸法変化を抑えられる。したがって、光軸のずれや波面収差、干渉計・分光器などにおける熱ドリフトを低減するためには、比熱が大きく、線膨張係数が小さく、熱伝導率および熱拡散率が適度に高い材料が望ましい。一方で、光学素子はこれらの熱的特性だけで性能が決まるわけではなく、保持構造や他材料とのCTE整合といった機械的要因も考慮する必要がある。様々な光学材料における線膨張係数、比熱、熱伝導率を表1に示す。
大学院在学時に携わった分光観測、低温実験とデータ解析をきっかけに、 実験・データ解析のサポートビジネスを創案。エストリスタを立ち上げ業務に従事する傍ら、 購買から経理までバックオフィス関連業務を一手に担う。 光学に関する素朴な疑問や分光・天文学に関する記事を主に担当。