Aπραξία

光学測定器

フーリエ分光器の利得(2):Fellegettの利得

2025.9.4

フーリエ分光器の利得(2):Fellegettの利得

フーリエ分光器は物理学の分野のみにとどまらず、化学、生物、薬学、医療といった幅広い分野で分析機器として応用されている。フーリエ分光器は、プリズムや回折格子のような分散素子を用いた分光器(以降、本記事では「スリット分光器」と呼ぶ)に比べて、複数のメリット(利得)が存在すると言われている。それぞれの利得には名称が付されており、多くの教科書にも記載されている。ただ、そうした利得の説明は古い教科書に記載されている場合は注意が必要ある(と筆者は考えている)。本テーマではそれら利得の概説と現代的な理解について議論する。

本シリーズの記事はこちらから:
フーリエ分光器の利得(1)

 

前回の記事でフーリエ分光器の原理と構成を概観したところで、さっそくメリットについて述べていきたい。1つ目の利得は「Fellegettの利得」と呼ばれる。P. B. Fellegett(1922-2008)はイギリスの物理学者で、彼の博士論文においてフーリエ分光器の原理を提唱・実証し、フーリエ分光の基礎を築いた人物である。彼の論文の中でフーリエ分光器の利得として記述されていたがこのFellegettの利得である。

 

今、検出器に単素子を用いた分光器を考える。プリズムや回折格子を用いた”古典的”なスリット分光器の場合、完全なスペクトルを得るためには分散素子によって波長毎に分けられた光を、分散素子もしくは検出器を(回転もしくは直動)駆動させるよって個々に取得し、再構成する必要がある。もし検出器の読み出しノイズが支配的な場合、スリット分光器の場合は個々の波長に対して検出器の読み出しノイズが付加されるのに対して、フーリエ分光器では同等のノイズがすべての波長を含んだ光に対して付加されるため、一つの波長あたりに付加されるノイズが軽減され、結果的に感度の向上が見込める、というのがFellegettの利得である。この説明だけでは「フーリエ分光器においてスキャンミラーを動かしながら複数回のデータ取得を行うことを考慮に入れていないのでは?」という突っ込みが予想される。そこで以下ではもう少し定量的に考えてみる。

 

古典的なスリット分光器とフーリエ分光器で同じ波長分解能\(\lambda/\Delta \lambda\)(波長サンプリングはどちらも\(N\)回)で分光することを考える。古典的なスリット分光器において、あるサンプリング幅\(\Delta \lambda\)で取得した際読み出しノイズを\(\sigma_{r}\)とする。フーリエ分光器で同じ検出器を用いた場合、1ステップあたりの読み出しノイズも同じく\(\sigma_{r}\)なので、\(N\)回のサンプリングにおいてのトータルノイズは\(\sqrt{N}\sigma_{r}\)になる。ただし、これは全波長域におけるノイズなので、\(\Delta \lambda\)あたりのノイズはトータルノイズを\(\sqrt{N}\)で割った\(\frac{\sqrt{N}\sigma_{r}}{\sqrt{N}}=\sigma_{r}\)となってノイズは全く同になることが確認できる。

 

次に積分時間について考えてみる。古典的なスリット分光器において\(\Delta \lambda\)で取得した際読み出し時間を\(t\)とすると、すべての波長域のスペクトルを得るために必要な時間は\(N_{t}\)となる。一方でフーリエ分光器の場合は、一回のサンプリングで得られる光量が(全ての波長域のエネルギーを一度に得ることができるため)\(N\)倍多いので、1サンプル当たりの光量を一定とすると必要な時間は\(t/N\)でよいことになり、トータル積分時間は\(t/N \times N = t\)となる。つまり、あるスペクトルを取得するのに必要な時間は古典的なスリット分光器に比較して\(1/N\)になる。これがFellegettの利得である。測定に同じ時間をかけた場合は、ノイズ量を維持したまま\(N\)倍の(SN比の)信号を得ることができる。なお、フォトンノイズ(ショットノイズ)が支配的な場合は、同じ積分時間での測定において\(N\)倍の信号が得られるもののノイズも\(\sqrt(N)\)倍になるため、SN比としては\(\sqrt(N)\)倍になる(Fellegettの利得は依然として効力を発揮するもののその効力は薄まる)。

 

しかしながら、現代では当たり前になっているリニアセンサーを古典的なスリット分光器に適用した場合は話が違ってくる。リニアセンサーでは単素子では取得できなかった複数の波長の光を一度に取得することができるようになるため、古典的分光器であってもスペクトルの取得時間が\(1/N\)になり、フーリエ分光器と同じ時間で同じSN比のスペクトルを得ることができる。したがって、現代においては教科書に記載されている「Fellegettの利得」が成立するのは非常に限定的な条件下のみということになる。

 

なお、Fellegettの時代は現代のような電子制御の赤外線検出器は存在するはずもなく、赤外線での干渉パターンを感光紙に焼き付け、その結果をフラフ用紙にプロットして手作業でフーリエ変換を行ったそうだ。途方もない作業で、筆者のような飽き性にはとてもできない、と思われる。物理学者には現代とは異なる資質が求められた時代なのだろう。。。

 

次回はJacquinotの利得について紹介する。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

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