
積分球は現代光学においてもはやなくてはならない光学機器となっている。積分球のもつ高いスクランブル特性やそこから射出される空間的および時間的一様度の高い光を用いて、光源特性の明るさや色の測定、特に散乱特性を持つ分光透過率・反射率の測定、光学機器の較正、偏光解消器など幅広い分野に利用されている。本シリーズでは積分球に関連する光学理論を整理し、設計や測定に役立つ定量的な知見を提供する。
積分球の原理は1892年にイギリスの物理学者W. E. Sumpnerによって提案された。Sumpnerは内面が拡散反射である球殻内での多重反射の理論的取り扱いを行い、積分球の原理となる理論式を導いた。その後、1900年にドイツの技術者であるR. Ulbrichtは直径50cmの乳白ガラスを用いて、Sumpnerの原理を具現化した球形の光源フォトメータを発表した。球殻内に光源を設置し、球殻に開けた小孔から漏れる光量を測定することで、光源からの配光分布を測定することなく、光源からの光束量(lm)を推定できる装置として、これまでの測定器をすべて置き換えるほどであったとされる。これが積分球の最初の発明であり、そのため積分球は”Ulbricht球”とも呼ばれる。
既に述べたように、積分球を通った光は、①空間的な一様性、②方向一様性(配光一様性、いわゆるランバート分布)、(これは忘れがちであるが)③時間的安定性、をもった理想的な光源として機能する。しかしながら、球殻内面での多重反射(散乱)という現象を用いるため、光量の減衰が発生し、導入する種光源の光束量に対して放射光の光束量は低下する(暗くなる)。また、レーザーのような指向性の高い光源を導入した場合は、拡散効果によって単位立体角あたりに含まれるエネルギーが低下し、光度(cd)や輝度(nit = cd/m²)が低下する。このように、理想的な光源を享受する一方で、”暗くなる”という代償を背負わなければならない。では、積分球から得られる光はどのくらいの明るさを持つのか?今回は、射出光の明るさをSumpnerの理論に沿って定量的に得ることを試みたい。積分球から取り出した光の明るさを直ちに推定できることは光学システムの検討や設計をする上で非常に有用な武器になる。
ここで考える積分球のトイモデルを図1に示す。積分球は理想的な球形とし、その内壁の表面積を\(A\)とする。また、内壁はランバート散乱面でありその反射率を\(R\)とする。球殻には2つの孔(開口)が空けられており、それぞれの孔面積を\(s_0\)および\(s\)とする。前者は種光を導入するための孔(入射開口)であり、後者は積分球からの光を取り出すための孔(射出開口)である。

図1:積分球のトイモデル
今、\(s_0\)を通して種光を入射させるとし、その光束量を\(I_0\)(lm)とすると、積分球の内壁に到達する光束量は\(E_1=I_0\)である。到達した光束のうち、内壁で反射され、再び(2回目に)内壁に到達する光量は、内壁で反射したもののみが到達できるので、
$$E_2 = R \frac{A-s_0-s}{A} E_1 = R \frac{A-s_0-s}{A} I_0$$
となる。\(\frac{A-s_0-s}{A}\)は内殻の面積\(A\)のうち、設けられた孔を避けて光を反射することができる面積の割合である。同様にして、3回目に内壁に到達する光量は、
$$E_3 = R \frac{A-s_0-s}{A} E_2 = \left[ R \frac{A-s_0-s}{A} \right]^2 I_0$$
であり、\(k\)回目に内壁に到達するエネルギーは
$$E_k = \left[ R \frac{A-s_0-s}{A} \right]^{k-1} I_0$$
であることが分かる。十分に時間が経過した定常状態における積分球の内壁に到達する光束量は、無限回数分の到達エネルギーの和であるので、
$$E_{tot} = \sum_{k=0}^{\infty} E_k = \frac{I_0}{1-R \frac{A-s_0-s}{A}} = \frac{I_0}{1-R(1-f)}$$
となる。ここで\(f=\frac{s_0+s}{A}\)であり、積分球に開けられた2つの孔の内壁面積に対する開口比である。反射率\(R\)が大きくなるほど、開口比\(f\)が小さくなるほど積分球の内壁に定在する光束量が増えることが分かる。なお、\(R<1\)、\(f<1\)なので分母の値は\(<1\)であり\(E_{tot} > I_0\)である。
この結果は一見するとエネルギー保存則を破っているようにも見える。しかしながら、異なる内壁への到達回数\(k\)回目と\(k+1\)回目の光子は、同時に積分球の内壁に到達するわけでなく、ずれた(前後した)時刻に到達することを考えると、保存則を破っているわけではないことが理解できる。ここで計算したある時刻において内壁に定在するエネルギー\(E_{tot}\)は、異なる時間で種光源から発せられた光を足し合わせた結果なのである。これが積分球の名前たる所以であり、強度の時間的安定性が高い理由でもある。
もし、積分球内部の反射率\(R=1\)であり、開口サイズが\(s_0=s=0\)の場合は拡散するエネルギーがないため、積分球はキャビティとなって内部のエネルギーがたまっていくことになる。上式の結果はこのような現象を定式化したものと考えれば直観的に理解できるかもしれない(ただし、実際には\(s_0=0\)ではエネルギーを積分球内に注入できないため現実にはあり得ない設定であり、現実は射出光束量\(=I_0\)の状態で定常状態となり、無限にエネルギーが貯められるわけではないことに注意が必要である)。
次回は、この結果を用いて積分球から取り出す光の明るさ(放射輝度)を計算し、設計に役立つ指針を示す。
大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。