Aπραξία

結像光学系

媒質に吸収がある場合のスネルの法則(2)

2026.2.26

媒質に吸収がある場合のスネルの法則(2)

本日もまたスネルの法則の話である。スネルの法則において屈折率が複素屈折率(\(N=n+ik\))のとき、つまり吸収がある媒質に光が入射した場合の屈折光線の振る舞いについて考えてみたい。前回の媒質に吸収がある場合のスネルの法則(1)では屈折角を定性的に予想した。今回は光学理論と数学を駆使して屈折角を定量的に得てみよう。

入射側の媒質を空気(もしくは真空)とした場合、媒質に吸収がある場合のスネルの法則は\(\sin\theta_1=(n+ik)\sin\theta_2\)となる(ような気がする)。この式は屈折率を複素屈折率に単に置き換えただけだが、まずはこの式の妥当性を判断しなければならない。

 

電磁気学的手法によってスネルの法則を導くには、界面における電磁場の境界条件を適用することによって得られる。”界面の両側にある電場\(E\)の平行成分(\(E_\parallel\))は等しい”という境界条件を用いると、(ここでは詳細を省くが)入射光と屈折光の波数ベクトルの平行成分が等しい(\(k_\parallel^{in}=k_\parallel^T\))という帰結が得られる。波数ベクトルは一般的には複素数でありマクスウェル方程式を満たすので、複素屈折率を用いて\(k=\frac{2\pi}{\lambda}N=\frac{2\pi}{\lambda}(n+ik)\)と表すことができる。よって、入射光線および屈折光線の波数ベクトルの平行成分\(k_\parallel^{in}\)と\(k_\parallel^T\)はそれぞれ以下のようになり、

$$k_\parallel^{in}=\frac{2\pi}{\lambda}\sin\theta_1$$

$$k_\parallel^T=k\sin\theta_2=\frac{2\pi}{\lambda}(n+ik)\sin\theta_2$$

\(k_\parallel^{in}=k_\parallel^T\)を使うと、複素屈折率を含んだ形でのスネルの法則が自然に導かれる。

 

複素屈折率を用いたスネルの法則が\(\sin\theta_1=(n+ik)\sin\theta_2\)の形でよいことが分かったので、いよいよ\(\theta_2\)を求めてみよう。上式を解くためには\(\theta_2\)を複素数に拡張する必要がある。つまり、\(\theta_2=\chi+i\psi\)とおくことから始める。その結果、スネルの法則の式は、

$$\begin{align}
\sin\theta_1 &= (n+ik)\sin(\chi+i\psi)\\
&= (n+ik)(\sin\chi\cosh\psi+i\cos\chi\sinh\psi)\\
&= (n\sin\chi\cosh\psi-k\cos\chi\sinh\psi)+i(k\sin\chi\cosh\psi+n\cos\chi\sinh\psi)
\end{align}$$

となる。さらにここで、吸収は十分小さいとして、\(k\ll1\), \(\psi\ll1\)とし、\(k\)と\(\psi\)の2次までで展開すると右辺は以下になる。

$$\text{(右辺)} = \left(n\left(1+\frac{\psi^2}{2}\right)\sin\chi-k\psi\cos\chi\right)+i(k\sin\chi+n\psi\cos\chi)$$

左辺と比較すると、複素数の項は0になるはずなので、\(k\sin\chi+n\psi\cos\chi=0\)より\(\psi=-\frac{k}{n}\tan\chi\)が得られる。これを元の式に代入することによって、

$$\sin\theta_1 = n\sin\chi+n\left(\frac{k}{n}\right)^2\sin\chi\left(1+\frac{1}{2}\tan^2\chi\right)$$

が得られ、これが媒質に吸収がある場合のスネルの法則の式である。

 

この式によって得られる屈折角\(\chi\)は、吸収がないとして計算した屈折角とどの程度違うのだろうか?今、吸収がない場合の屈折角を\(\chi^0\)、吸収がある場合の屈折角を\(\chi=\chi^0+d\chi\)(\(d\chi\)は吸収がある場合とない場合の偏差)とすると\(\sin\theta_1=n\sin\chi^0\)より、偏差\(d\chi\)を得ることができる。

$$d\chi \approx -\left(\frac{k}{n}\right)^2\tan\chi\left(1+\frac{1}{2}\tan^2\chi\right) < 0$$ 式からは角度誤差は負の値であり、媒質に吸収がない場合と比較して屈折角は小さくなることが分かる。これは定性的な考察によって予想した結果と一致する。また、偏差量は\(k/n\)の2乗に比例しており、波長500nm、吸収係数\(\alpha=0.01\text{ cm}^{-1}\)における複素屈折率の虚部は\(k=4\times10^{-8}\)であることを鑑みると、(よく制御された光学ガラスにおいても屈折率の精度は\(\sim1\times10^{-6}\)のオーダーであり、したがって屈折角の精度も同程度であるので、)ある程度の透過性がある材料であれば、\(k\)(\(\alpha\))による屈折角の偏差は全くもって無視できることが分かる。

 

ふと思い立って吸収係数の影響を検討してみたが、結果はなんとも拍子抜けしたものであった。まあこういうことも多々ある(むしろ多いくらいである)し、思ってもみなかったことに役に立つこともあるだろうと言い訳して筆を置きたい。

この記事の監修者プロフィール

池田優二

大学院在学中に自らが計画して手掛けた偏光分光装置の開発がきっかけで光学に魅了される。 卒業後民間光学会社に就職し、2006年にフォトコーディングを独立開業。 官民問わずに高品質の光学サービスを提供し続ける傍ら、2009年より京都産業大学にも籍を置き、 天文学と光学技術を次世代に担う学生に日々教えている。 光学技術者がぶつかるであろう疑問に対するアンサー記事を主に担当。

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