Aπραξία

回折光学素子

CGHを理解する:CGHの回折効率(5)

2026.4.2

CGHを理解する:CGHの回折効率(5)

Computer Generated Hologram(計算機生成ホログラム、CGH)は、光の回折・干渉の効果を使い、任意の方向に光を飛ばす(波面を作る)ことが可能な光学素子である。CGHをはじめとする回折光学素子に入射した光エネルギーのうち、目的の出射光になる割合を「回折効率」 と呼ぶが、前回の記事では高効率を実現可能なブレーズド型CGHについて紹介した。今回は効率とコストのバランスによっては最適な選択となりうる「多階調位相型CGH」について紹介する。

前回の記事で紹介したブレーズド型CGHは、CGHの開口面での複素振幅を連続的に変化させることで原理的に回折効率100%を達成することができ、回折効率の点では理想のCGHである。しかしながら、必ずしも100%の回折効率が必要でない場合は、コストや製造性の観点から多階調位相型CGHという選択肢もある。また、近年発達がめざましい空間位相変調器(SLM)で波面を制御する場合は多階調位相型CGHと見なすことが出来るため、ここでの議論が適用できる。

 

多階調位相型CGHは開口面での複素振幅を連続的に変化させるのではなく、段数\(s\)の階段形状で近似したものである。段数\(s=4\)の場合の多階調位相型CGHの開口面での複素振幅を以下に示す:

 

図1:多階調位相型CGHの開口面での位相分布\(\phi(x’)\)と複素振幅\(A(x’)\)。黒点線は回折効率100%のブレーズド型CGHの複素振幅を表す。多階調位相型CGHの位相分布はブレーズド型CGHの位相分布を階段形状で近似したものであることが分かる。この例の場合は、段数\(s=4\)で近似している。

 

多階調位相型CGHの回折効率を計算しよう。図1から次のことが読み取れる:

$$\begin{align}
\text{各段の幅:}\; \Delta x’ &= \frac{p}{s}\\
\text{各段の位相差:}\; \Delta\phi &= \frac{2\pi l}{s}\\
\text{各段の位相値:}\; \phi_k &= -\pi l + \frac{\Delta\phi}{2}(2k+1)\\
&= \frac{\pi l}{s}( 2k-(s-1) ) \quad (k = 0, 1, 2, \dots , s-1)\\
\text{各段の範囲:}\; -\frac{p}{2}&+k\Delta x’ \leq x’ \leq -\frac{p}{2}+(k+1)\Delta x’\\
\Leftrightarrow -\frac{p}{2}&+\frac{kp}{s} \leq x’ \leq -\frac{p}{2}+\frac{(k+1)p}{s} \quad (k = 0, 1, 2, \dots , s-1)
\end{align}$$

従って、開口面での複素振幅\(A(x’)\)は次のように表せる:

$$A(x’) = e^{i\phi_k} = e^{i\frac{\pi l}{s}( 2k-(s-1) )}$$

ただし、\(x’\)は以下の範囲である。

$$-\frac{p}{2}+\frac{kp}{s} \leq x’ \leq -\frac{p}{2}+\frac{(k+1)p}{s} \quad (k = 0, 1, 2, \dots , s-1)$$

開口関数\(A(x’)\)の1周期分を\(-\frac{1}{2}p \sim \frac{1}{2}p\)と取り、これまで同様にこの範囲でフーリエ級数展開を計算して、各係数\(C_m\)とその絶対値の2乗\(|C_m|^2\)を求めたい。これまでは計算の詳細は割愛してきたが、今回は計算過程も紹介しよう。

$$C_m = \frac{1}{p} \int_{-\frac{1}{2}p}^{\frac{1}{2}p} A(x’) \, e^{-i\frac{2\pi m}{p}x’} \, dx’$$

開口関数\(A(x’)\)の区間に合わせて、積分区間を分割すると次のようになる

$$= \frac{1}{p} \sum_{k=0}^{s-1} \int_{-\frac{1}{2}p+k\Delta x’}^{-\frac{1}{2}p+(k+1)\Delta x’} A(x’) e^{-i \frac{2\pi m}{p}x’} dx’$$

$$= \frac{1}{p} \sum_{k=0}^{s-1} \int_{-\frac{1}{2}p+k\Delta x’}^{-\frac{1}{2}p+(k+1)\Delta x’} e^{i \frac{\pi l}{s} ( 2k – (s-1) )} e^{-i \frac{2\pi m}{p}x’} dx’$$

各積分区間内では\(A(x’)=e^{i \frac{\pi l}{s} ( 2k – (s-1) )}\)は定数なので、積分の外に出すことができる

$$= \frac{1}{p} \sum_{k=0}^{s-1} e^{i \frac{\pi l}{s} ( 2k – (s-1) )} \int_{-\frac{1}{2}p+k\Delta x’}^{-\frac{1}{2}p+(k+1)\Delta x’} e^{-i \frac{2\pi m}{p}x’} dx’$$

$$= \frac{1}{p} \sum_{k=0}^{s-1} e^{i \frac{\pi l}{s} ( 2k – (s-1) )} \left[ \frac{e^{-i\frac{2\pi m}{p}x’}}{-i\frac{2\pi m}{p}} \right]_{x’=-\frac{1}{2}p+k\Delta x’}^{x’=-\frac{1}{2}p+(k+1)\Delta x’}$$

$$= \sum_{k=0}^{s-1} e^{i \frac{\pi l}{s} (2k-(s-1))} \frac{i}{2\pi m} e^{-i \frac{2\pi m}{p}(-\frac{1}{2}p+k\Delta x’)} \left( e^{-i \frac{2\pi m}{p}\Delta x’} -1 \right)$$

ここで、最後の括弧内でオイラーの公式を用いて\(\sin\)を作るように式変形し、整理すると次の形になる

$$= \frac{1}{\pi m} e^{-i\pi\frac{s-1}{s}l} e^{i\pi m} e^{-i \pi \frac{m}{s}} \sin\left(\frac{\pi m}{s}\right) \sum_{k=0}^{s-1} e^{i\pi\frac{2kl}{s}} e^{-i\pi \frac{2mk}{s}}$$

$$= e^{i\pi\frac{s-1}{s}(m-l)} \frac{1}{s} \mathrm{sinc}\left(\frac{\pi m}{s}\right) \sum_{k=0}^{s-1} e^{2\pi i \frac{k}{s} (l-m)}$$

ただし、\(\mathrm{sinc}\,x=\frac{\sin x}{x}\)で定義される。

和\(\Sigma\)の部分に注目すると、等比級数の和を用いることで、以下であることが分かる。

$$\sum_{k=0}^{s-1} e^{2\pi i \frac{k}{s} (l-m)} =
\begin{cases}
\frac{1-e^{2\pi i (l-m)}}{1-e^{2\pi i \frac{l-m}{s}}} = e^{-i\pi\frac{s-1}{s}(m-l)}\, \frac{\sin(\pi(l-m))}{\sin(\pi\frac{l-m}{s})} & l\neq m\\
s & l=m
\end{cases}$$

これらを用いて整理すると、次のようになる。

$$C_m =
\begin{cases}
\frac{1}{s}\mathrm{sinc}\left(\frac{\pi m}{s}\right) \frac{\sin(\pi(l-m))}{\sin(\pi \frac{l-m}{s})} & l \neq m\\
\mathrm{sinc}\left(\frac{\pi m}{s}\right) & l=m
\end{cases}$$

ここで、\(l\rightarrow m\)の極限を取ると、\(l\neq m\)の式はロピタルの定理により\(l=m\)の式に一致することが分かる。そこで、1つにまとめて次のように書く。

$$C_m = \frac{1}{s}\,\mathrm{sinc}\left(\frac{\pi m}{s}\right) \frac{\sin(\pi(l-m))}{\sin(\pi \frac{l-m}{s})}$$

これが得られたフーリエ級数展開の各係数\(C_m\)である。これを2乗することで次数\(m\)の回折効率の式

$$|C_m|^2 = \frac{1}{s^2} \,\mathrm{sinc}^2 \left( \frac{\pi m}{s} \right) \left[ \frac{\sin(\pi(l-m))}{\sin(\pi \frac{l-m}{s})} \right]^2$$

が得られる。次回はこの表式を使って、多階調位相型CGHおよび空間位相変調器(SLM)の回折効率の振る舞いを見てみよう。

この記事の監修者プロフィール

別所 泰輝

大学院在学中は素粒子物理学を専攻。趣味の天体写真も物理理論に裏付けられた解析方法を行っており、 アマチュア天文家の間で蔓延している都市伝説は一切信じない。赤道儀マニアでアマチュア天文機器にやたら詳しい。 計算機ホログラム(CGH)や干渉計などの高度な物理計算を軽々とこなす。 光学・物理学に関連する原理や数学的理解に関する記事を担当。

  • お電話でのお問い合わせ

    075-748-1491

    お急ぎの方はお電話にてご連絡ください。
    受付時間:平日10:00〜18:00

  • メールでのお問い合わせ

    MAIL FORM

    フォームよりお問い合わせください。

TOP