
Computer Generated Hologram(計算機生成ホログラム、CGH)は、光の回折・干渉の効果を使い、任意の方向に光を飛ばす(波面を作る)ことが可能な光学素子である。CGHをはじめとする回折光学素子に入射した光エネルギーのうち、目的の出射光になる割合を「回折効率」 と呼ぶが、今回は前回の記事「回折効率の計算原理」で解説した内容を踏まえ、具体的に回折効率を計算をしてみよう。
本記事を読み進める前に、ぜひCGHを理解する:回折効率の計算原理を一読いただきたい。
はじめにバイナリ振幅型CGHを考えよう。バイナリ振幅型CGHの一部分は、1次元バイナリ振幅型”グレーティング”と見なすことが出来る。最初の例として、duty比が\(1:1\)の単純な1次元バイナリ振幅型グレーティングで、光を通す部分と通さない部分の組が周期\(p\)で繰り返す場合を考えよう。にこの場合の開口面での複素振幅\(A(x’)\)のグラフを示す。duty比が\(1:1\)というのは、光を透過する部分と遮蔽する部分の比が\(1:1\)という意味である。

図1:1次元バイナリ振幅型グレーティングの開口面での複素振幅\(A(x’)\)(duty比\(1:1\))
この開口関数\(A(x’)\)の1周期を\(-\frac{1}{2}p \sim \frac{1}{2}p\)と取り、この範囲でフーリエ級数展開を行おう。フーリエ級数展開の詳細は割愛するが、各係数\(C_{m}\)は次の積分によって求めることができる。
\begin{equation}
C_m = \frac{1}{p} \int_{-\frac{1}{2}p}^{\frac{1}{2}p} A(x’) \, e^{-i\frac{2\pi m}{p}x’} \, dx’ \label{FourierExpansion}
\end{equation}
この積分を実行することで、各係数\(C_m\)が得られ、それらの絶対値の2乗\(|C_m|^2\)を求めることで、各次数光の回折効率が次のように求まる。

表1:各次数の回折効率
弊社でもよく作成しているバイナリ振幅型CGHの1次光の回折効率は、約\(10.1\%\)であることが分かる。興味深いことに、偶数次光の回折効率は全て\(0\%\)となっている。これは、開口関数\(A(x’)\)が奇関数であり、偶数次数のフーリエ級数展開項を持たないためである。そのため、2次光などの偶数次数光を利用したい場合は、duty比を\(1:1\)からずらし、回折効率を0で無くす必要がある。
次回はduty比を一般化した場合(\(1:1\)でない場合)について見てみよう。
大学院在学中は素粒子物理学を専攻。趣味の天体写真も物理理論に裏付けられた解析方法を行っており、 アマチュア天文家の間で蔓延している都市伝説は一切信じない。赤道儀マニアでアマチュア天文機器にやたら詳しい。 計算機ホログラム(CGH)や干渉計などの高度な物理計算を軽々とこなす。 光学・物理学に関連する原理や数学的理解に関する記事を担当。