
CCDやCMOSなどのデジタル検出器が広く使用される昨今、誰もが手軽に(といっても機材は高価だが)天体写真を撮影することができるようになっている。得られた画像に対して適切な「画像処理」をすることで、より美しい、あるいは科学的に正しい画像を得ることができる。今回は以前の記事で紹介した「ダーク減算」に関する「よくある誤解」を紹介し、適切な処理について紹介する。
天体写真の画像処理:ダーク減算とは?の記事でも軽く触れたが、ダーク減算についてはしばしば次のような誤解があると感じている。
・ダーク減算でライトフレームのノイズを取り除くことが出来る
・ダークフレームの枚数はライトフレームの枚数に関係する
実はこれらは正しくない。どう間違っているかというと、
×「ダーク減算でライトフレームのノイズを取り除くことが出来る」 → これは完全に間違いであり、ダーク減算はライトフレームのノイズを取り除くどころか逆に増やす
○「ダーク減算でライトフレームのホットピクセルを取り除くことが出来る。ダーク減算を行うとライトフレームにマスターダークのノイズが加わる」
ライトフレームとマスターダークにはそれぞれノイズが含まれており、ノイズを含んだ画像からノイズの含んだ画像を引き算するとノイズは消えず、お互いのノイズが加わる。「え?引き算をしているのだからノイズがキャンセルするのでは?」と一見すると思われるのだが、そうはならない。この理論的な側面については誤差の伝播の式をダーク減算の場合に適応してみると分かる。詳しくは以下の記事にて。。
ノイズを計算する(1)
ノイズを計算する(2)
ノイズを計算する(3)
1枚のライトフレームからダーク減算を行った画像を図1に示す。拡大画像を見るとわかるが、ダーク減算後はホットピクセルは消えているものの、背景のざらつきは増えている。

図1:1枚のライトフレームからダーク減算を行った画像
また、以下の誤解についても触れておきたい。
×「ダークフレームの枚数はライトフレームの枚数に関係する」 → ダーク減算を行うとライトフレームにマスターダークのノイズが加わるので、マスターダークのノイズは出来るだけ少ない方がよい
○「ライトフレームの枚数に関係なく、ダークフレームは多ければ多いだけよい」→ ダークフレームを出来るだけ沢山撮影してコンポジットすればより滑らかなマスターダークを得られるので、時間の許す限りダークフレームは沢山撮影した方がよい
ダーク減算はライトフレームからダークカレントを取り除くことが出来る。つまりホットピクセルや熱カブリを取り除くことができるのだが、同時にライトフレームにマスターダークのノイズを加えてしまう。そのため場合によってはダーク減算をしない方がよいこともあり得るのだ。例えば、ライトフレームは十分多数枚撮影したものの、ダークフレームはわずかしか撮影しなかった場合を考えよう。この場合、ダークフレームをコンポジットして出来るマスターダークはノイズが多いものになる。この場合、ホットピクセルや熱カブリを除去するためにわざわざダークを減算してライトフレームのノイズを増やすより、ダーク減算をせずにライトフレームをコンポジットした方が写真のクオリティが高くなる場合がある。図2は21枚のライトフレームについて,使用するダークフレームの枚数を変えてダーク減算したものである。この例ではダークフレームの枚数が少ないので、ダーク減算をすると背景のざらつきがかなり増えてしまっていることがわかる。そのためホットピクセルの除去より背景のざらつきを押さえることを優先する場合において、この例の場合はダーク減算しない方がよいかもしれないのだ。

図2:21枚のライトフレームについて,使用するダークフレームの枚数を変えてダーク減算したもの
以上のことから、ダーク減算を行う際は十分に長い時間・多数枚のダークフレームを撮影し、ノイズの少ないマスターダークを使う事が大事である。もし撮影したダークフレームが少ない等の理由でノイズの少ないマスターダークが得られない場合は、思い切ってダーク減算をしない方が、天体写真のクオリティが高くなる場合もあるのだ。
大学院在学中は素粒子物理学を専攻。趣味の天体写真も物理理論に裏付けられた解析方法を行っており、 アマチュア天文家の間で蔓延している都市伝説は一切信じない。赤道儀マニアでアマチュア天文機器にやたら詳しい。 計算機ホログラム(CGH)や干渉計などの高度な物理計算を軽々とこなす。 光学・物理学に関連する原理や数学的理解に関する記事を担当。
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