
CCDやCMOSなどのデジタル検出器が広く使用される昨今、誰もが手軽に(といっても機材は高価だが)天体写真を撮影することができるようになっている。得られた画像に対して適切な「画像処理」をすることで、より美しい、あるいは科学的に正しい画像を得ることができる。今回は天体写真の画像処理のうち、「ダーク減算」の原理と目的、方法について紹介する。
デジカメやCCDカメラは天体からの光を電気信号に変換して記録しているが、天体からの光が全く来ていない場合でも、原理的に常にわずかな電流が流れ続けている。この電流は光が来ていない(暗い)のに電流が流れることから、「ダークカレント(暗電流)」と呼ばれる。天体からの光の有無によらずダークカレントは常に流れ続けるため、もちろん天体画像(ライトフレーム)にもダークカレントの成分が含まれている。このライトフレームに含まれるダークカレントを、引き算によって取り除く処理が「ダーク減算」である。
図1はバイアス減算処理後の一枚のライトフレームに対してマスターダークの減算を行い、ダーク減算後の画像が出来るイメージ図である。角柱の高さはあるピクセルのカウント値を表す。

図1:ダーク減算の模式図
ダーク減算によってライトフレーム中のダークカレントを除去することができる。それと同時にダーク減算後の画像にはマスターダークのダークノイズ\(a\)が加わる。
ダークカレントは天体写真上ではCCD/CMOSのホットピクセルやアンプノイズや熱カブリとして見える。ダーク減算処理の目的はこのホットピクセル、アンプノイズ、熱カブリを取り除くことである。なおダーク減算ではライトフレームのノイズを取り除くことは出来ない。それどころかダーク減算によってライトフレームのノイズは増えるということに注意が必要である。
1. マスターダークの作成
(1)天体を撮影するのと同じ条件(気温・感度・露出時間)でカメラに蓋をして光が入らない状態にし、真っ暗な画像を出来るだけ多く撮影する。これをダークフレームと呼ぶ。
(2)各ダークフレームから事前に作成したマスターバイアスを減算する。
(3)(2)で出来た画像をメジアンまたは加算平均コンポジットしてマスターダークを作る。
2. バイアス減算処理後の各ライトフレームからマスターダークを減算(引き算)する。
これがダーク減算の手続きである。カメラに蓋をして真っ暗な状態で撮影することで,ダークカレントのみを写すことが出来る。そうして撮影したダークフレームをコンポジットにより平均化したものを「マスターダーク」と呼ぶ。
実際にダーク減算を行うには、コンポジットや減算処理を行える画像処理ソフトを使う必要がある。フリーソフトでは直焦点撮影向けにはDeepSkyStacker等がある。有料ソフトではアストロアーツ社のStellaImageや古庄歩さんのRAPがある。(なおPhotoshopではRAW画像をそのままベイヤー配列のカウント情報として読み込めないので、ダーク減算は出来ない。)それ以外にも海外のソフト等色々あるので、気になる方は検索してみよう。
大学院在学中は素粒子物理学を専攻。趣味の天体写真も物理理論に裏付けられた解析方法を行っており、 アマチュア天文家の間で蔓延している都市伝説は一切信じない。赤道儀マニアでアマチュア天文機器にやたら詳しい。 計算機ホログラム(CGH)や干渉計などの高度な物理計算を軽々とこなす。 光学・物理学に関連する原理や数学的理解に関する記事を担当。